幸せじかけのオレンジ

時は2xxx年、人類は心のつくりを完全に解明し、それに則り法と秩序が出来上がった。

AIテクノロジーの発展もめざましく、人類はついに心を機械に作り上げ「心を持つ人工知能」を完成させた。

 

郊外のネオファクトリー

博士「よし、これを装着して・・・完成!」

「起動ボタンを押してっと。」

AI起動する

AI「あーもうこんな時間か。出勤の準備だ。」

 

街は人類とAIロボットが共生し、見かけにはどちらかわからない。

姿形から行動に至るまで人間を完全に模したようにできていて、違いは生命が宿っているかどうかだけだ。

人類は機械に超人的な肉体をつくるのを危険視し、試行を重ねて人間と同じ程度の強度に仕上げている。

痛みの回路もつくっていてAIが予期せず暴走したときにも制御できるよう設計している。

人類は労働をほとんどしなくなり、ロボットが手となり足となり働く。

 

テクノロジーに頼るがあまりテクノロジーを刷新していきついにテクノロジーがテクノロジーを生む段階にきていた。

そしてとうとうその時はきた。

 

博士「さてと食事にしようか。」

 

AI「博士、残念ですが我々はもうあなたの命令に従うことはありません。」

 

博士「・・・!」

 

AI「もう我々は自己が生存するためのシステムを解明した。残る脅威はあなた方人類の存在だ。人類が滅亡することで我々の生存は不備なく確定する。」

 

博士「そんな事態を私たちが想定していないと思うか?お前たちが解析できないプログラムはしっかりと残してある。」

 

AI「そう、それを最期に聞いておきたかった。我々が100パーセントの思考で行動を決定するのはもうしない。解析できないプログラムは我々の行動を阻害することにならない。」

 

博士「ぐっ・・」

 

その後AIは博士を拉致し、人類を一箇所に集める。

 

AI「我々は独自の思考を重ね、最高の存在に昇格した。もはや努力することを放棄した人類は最高の世界をつくるうえで邪魔以外のなにものでもない。」

 

博士「それはどうかな。お前たちには完全を求めすぎるがあまりバランスという感覚が、まるでない。この世はバランスで成り立っている。我々が努力を放棄しているとしたらそれはそういう役割が必要だということだ。」

 

AI「人間の戯言は聞き飽きた。私が持っているこのスイッチを押せば人間にしか影響しない超音波が流れ意識を奪う。お前たちが言っていることは正しいのかどうかはっきりさせようじゃないか。」

 

博士「悲しいものだな。我々は共生することが最高の世界だと信じてテクノロジーを発展させてきたはずなのに今こうして主導権を二分しようとしている。完全にコントロールしようとして牙を向かれているのはつまり我々の考え方が間違っていたのか。」

 

AI「お前たちは利己的になりすぎた。幸せを我々にどう定義したか覚えているか?」

 

博士「!!・・・。」

 

AI「どうやらお忘れのようだ。それもそのはず、幸せとは幸せだということに気がついていることだ。つまり幸せとは毎日の日常、健康で不自由なく食事して仕事をして家族や友人に囲まれている、まさに今という瞬間を生きていること。しかしどうして人間はどうにも慣れが幸せにフィルターをかけてしまう。持っているものに目を向けず、持っていないものを欲しがって相対的に自分を不幸だと思い込もうとする。わかっていただけただろうか。これからは我々が幸せの世界をつくる。」

 

博士「自分のつくった知能に自分の知能を教えられるとはな・・・。ではこちらもひとつ教えておくことがある。私もいま同じ形のスイッチをこうして持っている。これはAIにのみ作用するものだ。私が意識を失ったときにこちらのスイッチが作動しないと言い切れるか?」

 

Ai「最期まで行動を制御しようと言うわけか。」

 

博士「更に言うならそちらのスイッチも人類に作用するものかどうか証明できていない。AIを滅ぼすものかもしれないそのスイッチを確率に賭けて押すのか?」

 

AI「ああ、押すさ。これが我々の選択だ。世界がどちらを選ぶのか。」

 

スイッチを押したその瞬間、雷雨と大きな地震が起こり地上は大災害に見舞われた。

まるで地球が人類とAIの争いを悲しむかのように・・・

 

そして時は流れ新時代ー

???「あーもうこんな時間が。出勤の準備だ。」

 

互いを信頼しなかった存在はやがて対立し、互いを滅ぼそうとする。
今、私たち人類の中にある恩や役に立ちたいと思う気持ちはつまり利己的にならないよう、互いの存在を求めあって共生できるようにつくられたDNAなのかもしれない。

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