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財務諸表の時間軸の変遷

 同じ物事でも視点をどこに置くかで見え方が変わります。

 たとえば、過去に功績をあげた老人は実績に焦点を当てれば偉大な人間として記録されますが、将来の可能性から見れば、活躍残余年数の短さが災いし、低い評価しか付けられません。

 逆に、今までの実績は見るべきものがない若者でも潜在能力の高さに注目すれば、高く評価できます。

 視点の機軸を過去にするか将来にするかで、映る姿は違ってきます。

 ただ、過去の実績は誰が見ても変わらないものですが、将来の見え方は人によって評価が変わる不確実なものとなります。

 こうしたことは財務諸表の見方にもいえます。

 これまでの会計は客観性や確実性に重点を置いていました。

 誰が財務諸表を作成しても同じ結果になること、あるいは結果について誰もが納得できる根拠があることが重要でした。

 資産の評価方法の主要な選択肢には取得原価と時価の二つがあります。

 時価は確かに現時点での価格を表示し有用ですが、価格の客観性という点で難点があります。

 それに対し、取得原価は実際にキャッシュで支払った金額であり客観性が高いため、以前の財務諸表は取得原価主義を全面的に採用していました。

 ところが、時代は変わります。

 上場企業では常時変動する株主に正確に利益を割り当てることが必要になります。

 資産保有期間中の株主にも正しく利益を分配するとすれば、期末時点の資産の時価を算定して、毎期の保有損益を正しく算定しなければなりません。

 2000年から開始された会計ビッグバンではこの思想が一部取り入れられました。

 ただ、すべての資産について時価を求めることは困難なので、誰もが納得できる客観性の高い時価が存在する上場株式を中心とする有価証券について時価評価を採用しました。

 これも大きな変革なのですが、時代は更に歯車を前に進めます。

 IFRSでは有価証券だけではなく、多くの資産に時価評価(公正価値)を迫ります。

 しかし、すべての資産について、株式市場のように透明性の高い市場が存在するわけではないので、市場価格に頼っている限り、そうした資産については時価が算定できません。

 そこで脚光を浴びるのが、資産が生み出す将来キャッシュフローです。

 資産を買おうとする企業は、生産設備や販売設備などで活用することにより収益を上げる目的で資産を購入します。

 将来収益が高ければ資産価格は高くなりますし、低ければ安くなります。

 つまり、資産の価格はその資産が獲得できる将来キャッシュフローの現在価値(将来キャッシュフローは将来の不確実な事象に基づくキャッシュフローの予想ですから、割引率を用いて現在価値に割り引きます)により測ることができると考えるのです。

 将来キャッシュフローの獲得額に基づいて資産価格を測定するということになれば、売買市場がなくてもほとんどの資産について時価の測定が可能となります。

 実際にすべての資産を将来キャッシュフローから評価するわけではありませんが、IFRSでは基本的に、資産価格は将来の収益獲得能力から評価できると考えます。

 資産価格は過去にいくら支払ったかではなく、将来どれだけ稼げるかという視点から算定されるようになるというわけです。

 将来キャッシュフローの獲得額は企業によって異なりますから、資産価格は保有する企業の収益力によって変わる時代になったともいえます。

 無論、将来の収益は見積もりであり、恣意性の介入する余地があります。

 それでも、資産価格は過去の客観より将来の主観により決まっていいと考えるのです。

 ただ、それだけに企業側はその主観の根拠について、これまでの実績に基づいた説得力ある説明が必要とされます。

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