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三匹の犬がいない風景

「#涼飇」(りょうひょう)・・・涼しい風。

二度見した。こんな漢字みたことないっすよ。

写真と文学の二足のわらじを履く僕にとっては、まるで「新しい文字」が「風景」になって眼の前に飛び出てきたような気持ち。

風偏が必死になって三匹の犬から逃げてるように見える。ぴゅーっと吹く風を追いかける、小さい子犬たち三匹。しかしまあ、「涼しい風」なら「涼風」とでも書けばいいのに、「涼飇」。天才かよって。

涼飇。

だいたいパソコンの文字変換でさえ出てこない。「りょうひょう」って変換しても出てこなくて、今これ、涼飇、コピペで書いてますよ。なんでもかんでも、いらん情報でも盛大に取り込んじゃうパソコンの中にもないなんて!まさに、駆け抜ける犬、犬、犬!風偏に犬三匹。どんだけすばしっこいのさ。眼の前にちゃっちゃと駆けて行く犬三匹が見える。さぞその風は美しく、涼やかなことだろう。

シャッターを切りたい。少なくとも1/2000くらいで切らないと、多分捉えることさえ出来ない。いや、1/32000でも写らない風が涼飇なのかもしれない。

突然はっと気づいた。写真はじめて約9年。いちども犬撮ってないやん。

写真専用のハードディスクを今覗いてみたら、30万枚程撮影しているのに、その中に、一匹の犬さえ写っていない。これは驚くべきことだ。涼飇でさえ犬を三匹も抱えているというのに、俺ときたら、カメラ持って撮ってきたのは冴えない風景ばっかり30万枚。途方もなく重々しいその中に、一匹の犬もいない。

犬の不在。

こう書くとなんだか急に切ない気分になってきた。犬が乗っていない風なんて、ただの風。そんなのもう、涼しくもなんともない。

そうだな、梅雨が明けたら一度犬を撮りに行こう。平成最後の夏にふさわしい一大企画だ。犬なんてどうやって撮ろうか?どこか広い公園に行けば、三匹の仲良く走る犬が見つかるんだろうか。

空は青い空で、それは碧空と書く。炎節の碧空に吹く涼飇。何言ってんのかわかんない文字列に、もう今こっちで笑ってますよ。は、は、は。ワンワンワン。犬犬犬。文字面が頭で踊りだす。漢字って、こんなに強かったっけ?

文字を頭に描いたら、急に世界が動き出した。この世界は言葉で出来ている。文字が動けば世界が動く。まさに旅する日本語。表意文字ならではの具体性。駆けていく犬三匹、風が吹く。燃えるような夏に、どこまでも抜ける青空の下だ。必死に走らなくては、多分、あの風偏の端っこさえシャッターに収めることが出来ない。できれば最高のタイミングでシャッターを切ろう。ちょっと半逆光のタイミング、スナップみたいなエモい感じ。いつも撮ってる雄大な風景じゃなくて、そう寸景。

犬三匹が風の端っこを捉える瞬間。

次々につながっていく言葉の字面が、僕を旅路につれていく。

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