見出し画像

#335 速い眼鏡

昔々は眼鏡を掛けていて、バイクに乗る時も不自由していなかったのだけど、「これはアカン」と思ったのが、マン島TTを取材しに行った時のこと。

ホンダからCBR600Fを借りて、島内の移動用に使わせてもらい、レースウィーク中に時々設定される『お前らパンピーもTTコースを好きにかっ飛ばしてええんやでタ~イム』を楽しんでいた。普通のペースで走っていると普通の道なのに、速度が上がってくると普通だった道がウォッシュボードに様変わりするのだ。ヘルメットの中で奥歯ガッタガタゆわされ、奥歯以上にガッタガタするのが、眼鏡である。

飯尾和樹が言うところの「忍法眼鏡残し」状態が続き、ともかく視点が定まらない。その時すでに観る側じゃなくて、出る側になるつもりでいたので、帰国してすぐにレーシック手術を受けた。

以来、眼鏡無しの快適生活を16年ほど送ってきたものの、この1~2年はどうもしっくりこない。なんとなく乗るのが下手になっているのを実感していて、まぁ年齢も年齢だしな、と素直に受け入れていた。

そんな時、なにげなく妻の眼鏡を掛けてみてクリビツテンギョー。え、世の中ってこんなにクッキリしてるもんなの? と。視力が低下していることを自覚し、今日、眼鏡屋さんに行ってきた。

こっちはすっかり作る気満々で、「うわぁ、よくこれで運転してましたねぇ」と、ほくほくされる気も満々だったのに、「立場的にあれですけど、要らないと言えば要らない程度でまだまだイケそうですよ。それよりこの数値だと老眼鏡がないとご不便じゃないですか?」と、データシートを見ながら上げて落としてくれるお姉さん。

眼鏡屋さんまでは軽トラで行ったので、お姉さん的には(畑仕事にたいした視力は要らんやろ)と思ったのかもしれない。しかし、こちとらスピードの世界に生きている。バート・マンローが言うところの「挑戦しないやつはキャベツと同じ」である。かのマルチナ・ナブラチロワがスランプに陥った時、眼鏡を作り直して復活したエピソードを知ってっか? こちとらキャベツ作ってんじゃなくて、そういう世界に生きてんだ。

という気分で引っ込みがつかず、久しぶりに眼鏡を作ってみた。老眼鏡じゃないんだぜ。自分なりの速さとか上手さを取り戻すつもりだけど、そうならなかった時のことは考えていない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?