見出し画像

銭湯で、銭湯とサウナのマンガの魅力を語らい、1人1.4冊買ってもらえた日

 去る1月27日(日)、文京区茗荷谷で親子三世代にわたって営んでいる銭湯「大黒湯」さんで、”銭湯とサウナを題材にしたマンガ”の魅力についてトークするイベントを開催した。
 お客さんには会場で銭湯サウナマンガ16タイトルから、好きな1冊を買うことが約束付けられている――という変わった催しだ。
 題して「マンガで入る銭湯サウナ」。

 主催は、昨年10月に後楽園にオープンしたマンガ複合施設「マンガナイトBOOKS」。今は珍しいマンガ専門の書店であり、カフェ&バーという憩いの場でもあり、マンガのギャラリー機能も備えている、オルタナティブなお店だ。
 マンガのコミュニティユニット「マンガナイト」の代表を務め、「マンガの拡張」に挑んできた山内康裕さんの、最新にして最高の「マンガと人の交差点」だ。

 マンガナイトBOOKSではマンガナイトのメンバーで話し合いながら12月より「銭湯サウナマンガ」の特集コーナーを棚で展開してきた。まだ知られている作品だと、タナカカツキ『サ道』やまんしゅうきつこ『湯遊ワンダーランド』など。
 特にその魅力にどっぷりハマってしまった黒木が、今回のトークイベントをご近所の銭湯で企画させていただいた。

 ゲストは『東京銭湯パラダイス』という、都内銭湯の最高のミシュランガイドといっても過言ではない、銭湯レポートマンガを上梓したさくらいまさん(写真右)。

 そして都内屈指の名銭湯・小杉湯の番頭であり、さまざまな銭湯の魅力を俯瞰的な図で紹介するイラスト『銭湯図解』シリーズを手がけるクリエイター、塩谷歩波さん(写真右から2番目)。先日その銭湯図解や解説コラムをまとめた一冊『銭湯図解』が出版されたばかりだ。

 漫画家、番頭兼イラストレーター、そして銭湯サウナマンガ博士課程のぼく、三方の視点から、2016年以降に増えつつある銭湯サウナマンガの魅力を振り返った。

 そしてお客さんにはただトークを聞いていただくのではなく、ワンドリンク制ならぬ「ワンマンガ制」をお願いした。

 マンガナイトBOOKSが会場の大黒湯さんの中で銭湯サウナマンガを出張販売する。お客さんは絶対に1人1冊以上そこからご購入いただく、というのを事前に約束させてもらったのだ。

 参加費用を払って茗荷谷の銭湯まで足を運んで、600円~1000円前後のマンガも買わなきゃいけない。

 なかなか無理なお願いだし、そもそもこんな企画を銭湯のオープン時間前に受けていただいた大黒湯さんにも頭が上がらないほどの変テコな企画だ。

 結果として蓋を開けてみれば、初回にもかかわらず22人のお客さんに来ていただき、30冊の銭湯サウナマンガを買っていただけた。ワンマンガ制だけれども、1人約1.4冊買ってもらえたのだった。

 もちろんゲスト2人の話が最高におもしろかったので、その興奮のままお客さんがマンガを手にとってくれたのもあるだろう。
 けれども、個人的にはこの「自分はマンガを1冊買わないといけない」という約束が、登壇者とお客さんの双方にいい効果をもたらしたと思っている。

 わざわざ来ていただいてこの後買ってもらうからには、16タイトルの銭湯サウナマンガがいかに個性的でどんなおもしろさがあるのか、綿密な打ち合わせの上で必死にトークで語った。チャット上で事前準備に付き合ってくださったさくらさんと塩谷さん、本当にありがとうございました。

 お客さんはお客さんで、このあとできるだけいい銭湯サウナマンガを買おうと、自分たちが話す「銭湯サウナマンガ」トークに集中して耳を傾ける。「銭湯でマンガを買う/買ってもらう」という行為を互いにより楽しむために、トークにおいて双方歩み寄る姿勢が生まれていたのだ。

 本来は「1冊買わねばならない」はうっとしい縛りだ。だけど、都内随一の八角形の湯気抜きの下で銭湯とサウナがテーマのマンガの話を聞く、そしてその銭湯でマンガを買う、という体験価値も加わってくると、話は別だ。

 ただAmazonでポチったり書店を巡ったりとは違うランドスケープがそそられる。トークを聞きながら自ずと銭湯サウナマンガの魅力を考察してしまう。買うことが縛りではなく、気持ちのいい消費に変わる。

 そうに違いないという確信と、果たして賛同してもらえるだろうかという不安との間でゆらぎながら提案したところ、まず来てくださった22人は本当に最高のセンスを持ち主だと思うし、1人1冊以上買ってくださった事実に、そうしたマンガの買い方、文化の楽しみ方に共感してもらえたようで非常にうれしかった。あらためて、来てくださったみなさんありがとうございます。

 マンガ文化も銭湯・サウナ文化も盛り上げたいので2019年はとにかくこの「銭湯サウナマンガ」の魅力を発信していくとして、並行して「ワンマンガ制」など、マンガナイトBOOKSのみんなでいろんな形でマンガを通して交流したいと強く感じたイベントだった。

 銭湯サウナマンガは世相を反省するように新しい作品が続々でているので、それを推すレビュー記事もガシガシだしていく予定。近日中に今回のトークの内容も何かしらの形でだすので、よろしくおねがいします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?