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2020年個人的にすごかったマンガ9作品

2020年は副業でマンガレビュー仕事もぽつぽつ再開し始めました。
スポーツ誌『Number』のWeb版で『ハイキュー!』と『鬼滅の刃』の最終巻発売にあわせて1本ずつ書かせてもらったのですが、どっちもデイリーランキング1位とれてよかったです。

▼大人気バレー漫画『ハイキュー!!』は、なぜ“立体的”に見えるのか? 「他で見たことない!」3つの表現法
https://number.bunshun.jp/articles/-/845682
▼なぜ炭治郎はこんなに痛がるの…? 『鬼滅の刃』爆発的ヒットを支えた「理不尽のセルフ実況」とは
https://number.bunshun.jp/articles/-/846067

特に『ハイキュー!』はマンガ表現について解説したところ、アニメから入っていた人たちに「マンガをこんな読み方したことなかった」と言ってもらえてうれしかったです。マンガと関係ないメジャー誌でマンガの魅力をひらくことができたのはライター冥利に尽きるので、2021年もいろんなメディアでレビュー書きたいなとモチベーションがむくむく膨らんでいます(お仕事お待ちしております)

2020年も本業がいっぱいいっぱいだったので新作をなかなか読めませんでしたが、『このマンガがすごい!2021』にも『マンガ大賞2020』にも選ばれていないけどもっと評価されるべきマンガってあったな! ということで年の瀬で駆け込みながらガガガッと紹介していきます。

●むつき潤『バジーノイズ』(全5巻/小学館)

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2018年に小学館『週刊ビッグコミックスピリッツ』で連載をスタート。人との関わりを避けて自室でDTM制作に没頭していた青年と、その才能に気づいた同じマンションの女の子が織りなしていく、バンド×青春物語です。

水野英子『ファイヤー!』、上條淳士『TO-Y』、ハロルド作石『BECK』、矢沢あい『NANA』、かきふらい『けいおん!』、榎屋克優『日々ロック』、大橋裕之『音楽』……
バンドマンガというのは定期的に傑作が生まれているジャンルで、自分もそれらしいジャケットを見ては購入し続けている人生です。とにかく本作はこの系譜において金字塔を打ち立てた2010年代の傑作だと確信しています。

理由をざっとあげると、

・SNS&ストリーミング時代にバンドや音楽アーティストがヒットソングを作る過程、バンドマンの生態系、レコード会社の役割を、緻密な取材のもと高解像度で描いた

・それによって『BECK』以降続いていた「物語のテコ入れとしてバンドはフェスを目指す」メソッドから抜け出しながら、「誰と鳴らすか」という新しい成長とカタルシスを描いた

・この「誰と鳴らすか(一緒にいるか)」は音楽やバンドマンガだけでなく、分断の時代に「強いつながり」を持つ意義も描いており、青春物語としても傑作になった

・音の描写を「ジャーン」「ボボボボボ」みたいな描き文字をまったく使わず、打ち込み音はシャボン玉のような白丸、ベース音は波形、ドラム音は縦線という、一定の法則に基づく幾何学模様で描いた。ポップかつ装飾性の高い画作りで、インスタ時代、特にZ世代にマッチしている

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……などなど。バンドマンガで続いてきた主人公像、成長パターン、音楽表現などあらゆるものをアップデートしてしまいました。
物語も5巻でしっかり大団円を迎えます。初の連載作品でこれほどまでに完成度の高い作品を生み出したむつき潤は、本当にもっともっと評価されるべき。

1巻が出たときにねとらぼでレビューを書いているので、よかったらどうぞ。
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1810/06/news025.html

●大橋裕之『ニューオリンピック

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緊急事態宣言下、自室でゲラゲラ声をあげて笑いました。
『シティライツ』『音楽と漫画』『太郎は水になりたかった』などの大橋裕之による、実在するアスリートたちに勝手に変なことをやらせるショートコメディ集です。

もう本当にひどいことになっている。
サッカーの香川真司が、自ら考案した「忍者サッカー」というゲボみたいなスポーツを五輪の正式種目にしようと協会に掛け合う。YouTubeの動画ネタを探している総合格闘家の朝倉未来に、ヤワラちゃんがニコニコしながらストリートファイトを申し込んでくる。
実在の選手を使ってコメディを作ろうとして、こんな設定思いつくでしょうか? ぶっ飛び具合が最高。
一方で、プロアスリートに垣間見える異常性を捉え、しっかりと転がして膨らませた末のコメディになっているから、共感できるし、笑える。
大橋裕之ワールド全開。この作品が世に生まれる契機となったという意味で、東京五輪には感謝しています。

まずは試し読みどうぞ。来年の五輪開催に合わせてもう一作品待ってます。
2014年のW杯シーズンに連載していた、本作の前身『ザ・サッカー』も激推です。

●近藤聡乃『A子さんの恋人』(全7巻)

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30歳を目前にニューヨークから帰国したA子さんが、渡米前に付き合っていたA太郎と、米国に残した恋人のA君との間で生き方に思い悩む人間ドラマです。
単なる恋愛劇ではなく、誰と生きることで自分は自分でいられるか、あらゆる可能性を捨てきれずに決断を先送りにするアラサーたちの葛藤が描かれます。その末に6、7巻でA子さん、A太郎、A君がそれぞれの形で自分の気持ちに整理をつけて行動していく、成長の過程がとにかく勇気づけられる。

本作はサスペンスの作り方が実に巧妙です。
冒頭で「30歳手前で人生設計に悩むアラサー女子あるあるマンガ」を装いつつも、

・地味で自己評価の低いA子さんが、イケメンでハイスペックなA太郎とA君からなぜモテるのか理由がはっきりしない
・昔A太郎がA子さんに言ったあるセリフが、2人の頭から離れずやたらと回想として出てくる
・メインの登場人物は「K子」「I子」「U子」など伏せ字になっており、あるタイミングで一人ひとりの本名が段階的に明きらかになる

といった違和感が読者につきまとい、物語が進むにつれて重きを増していき、最終7巻で全てを一気に回収してくれます。
どう生きるか勇気ある選択をしていった主人公たちの成長と同時に、序盤から読者にあった迷いも晴れたときの感動がすさまじく、何度も鼻をすすってしまいました。
「選べる」からこそ動けずにいる、という2020年代も続いていくであろう20、30代の悩みを、高度なエンターテイメント性とともにすくい取ってくれる作品。人生の教科書として読み返したいし勧めたいです。

●真造圭伍『ノラと雑草』(全4巻/講談社)

●衿沢世衣子『光の箱』(単巻)

●魚豊『チ。』(1巻~)

●山下和美『ランド』(全11巻)

●藤本タツキ『チェンソーマン』(9巻~)

三浦糀『アオのハコ』(『週刊少年ジャンプ』読み切り)

●よしながふみ『大奥』(18巻~)

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