マガジンのカバー画像

TOKYO UTOPIA

46
余白を余白のまま価値とする。モノに溢れた現代においては、そんなことが可能だと思う。光と水、香り、音、そして触れること。そんな簡単なものだけで、求めている世界は作れるのかもしれない… もっと読む
運営しているクリエイター

2018年11月の記事一覧

疲れる美術館と、疲れない美術館

 東京・品川にある原美術館が2020年12月末に閉館する。ちょうど週末に訪れた矢先の発表だったので、すごくショックだった。竣工から80年が経って建物の老朽化が進み、美術館として一般公開するには適さない状況らしい。ここはもともと個人邸だったわけだが、お金があれば買い取りたいし、ホステルにでもしたいくらいだ。閉館後は別館でもある群馬県の「ハラ ミュージアム アーク」あらため「原美術館ARC」にその拠点を移すそうだ。  ハラ ミュージアム アークってどこやねん、というわけだが、実

はじめて北国の空気に触れた夜

 僕は3年前、はじめて北海道を訪れた。妻が北海道出身ということもあり、ご両親にはじめて会うということですごく緊張していたはずなんだけれど、今となってはあの時の緊張感が思い出せない。唯一覚えてるのは、はじめましてで長居するのも気が引けるからと妻の実家に1泊、その前の1泊はなぜか札幌のホテルをとったことだ。  新千歳空港から札幌方面の電車に乗り替えるとき、突然外気が押し寄せる。はじめて降り立つ北の大地の空気は驚くほど澄んでいた。季節は12月。雪はそこそこ積もり、気温も0度前後を

作品のない美術館と、海へと続く長い道

 初めて豊島を訪れたのは2016年。3年に1度の瀬戸内国際芸術祭が開催された年だった。岡山の宇野港からフェリーに乗り、1時間ほどで島に着く。僕らが訪れたのは芸術祭の間のシーズンだったので、人はそれほど多くなかった。  もちろん一番の目的は豊島美術館。2010年に建築家・西沢立衛がデザインした美術館だ。エントランス棟でお金(現在鑑賞料は1540円と安くはない)を払って、カフェスペースの脇を抜け、森の中を歩くと大きなドーム状の空間が姿を表した。この空間自体がこの美術館唯一のアー

やうやう白くなりゆく空

 僕の誕生日は1月1日。人からはよく「珍しいね」「覚えやすくていいね」と言われるが、小さい頃は冬休みで友だちにも会えないし、なんなら家族だって「誕生日おめでとう」より先に「あけましておめでとう」と言ってくるので、なんとなく嫌な日に生まれたもんだなと思っていた。  とりわけ、誕生日だから何を食べたいだとか、どこに行きたいなどと思ったことがない。早朝に初詣へ行き、軽く睡眠をとっておせちを食べてお年玉をもらう。それが定番コースだった。  大人になった今、誕生日には毎年妻と由比ヶ

「とうめいなもの」に目を向ける

 みず、くうき、ひかり。  どこにでもあって、透明で、普段あまり気にすることはないはずの、そんな当たり前のものに僕は心惹かれるようになりました。  考えてみれば、大人になるにつれて、空が綺麗だとか、水が透き通っているとか、身の回りにある、当たり前のことに目を向けることは少なくなりました。特に、ものや情報で溢れた東京に住んでいると、人に冷たくなったり、生きていくために取捨選択し、どんどん合理的になってしまうものです。  それでも生きてはいけるけど、なんだか、悲しい。そう思