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切るべきタイミングが難しいジョーカー=突然の逃げ

「ジョーカーカードを切った」とレース後に語ったのは、今年の札幌記念でネオリアリズムを勝利に導いたクリストフ・ルメール騎手であった。それまで差す競馬をしてきた同馬を突然に先頭に立たせ、そのまま逃げ切らせてしまったのだ。モーリスやヌ―ヴォレコルトなど強い馬たちがいる中、どうすれば勝てるのかを考え抜いた末の戦略であった。その日は家族を競馬場に招いていたようで、何としても勝ちたかったのだろう。これだけを見れば、ネオリアリズムの快勝劇、またはルメールマジックのようだが、実はそうではない。ジョーカーという表現に示唆された真実について、私たちは深く考えなければならない。

ジョーカーとは、トランプの中に含まれる特別なカード。ゲームによってその役割は異なるが、ほとんどの場合は、ワイルドカードとしての万能性を持ち、最高の切り札として用いられる。ここぞという場面で使うと最大の効力を発揮するため、最後の局面まで手元に残しておくことが多い。その反面、一度使うと、しばらく(もしくは2度と)用いることができなくなってしまうという怖さもある。使う局面を間違うと、せっかくのジョーカーが無駄になったり、次の局面を悪くしてしまうこともある。ジョーカーは使い方が難しいのである。

ルメール騎手が競馬の逃げをジョーカーにたとえたのは、まさに逃げることは最高の切り札であり、かつその効果は一度しか有効でないことが多いからである。ここでの逃げるとは、突然逃げることを意味する。普段は控えて競馬をしている馬やこれまで一度も逃げたことのなかった馬が先頭に立つ、誰にも予期されなかった逃げ。

なぜ突然の逃げがジョーカーになるのかというと、

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