カンパイ
泰敏は、人見知りが激しい。それは自他ともに認めることである。そんな泰敏が、見ず知らずの人と会おうとしていることに、自分だけでなくこの話を聞いたら誰もが驚くことだろう。
「では、15日に、招き猫の前でお会いすることでいかがでしょう?」
「了解です。では、15日に。」
こんなやりとりをしたこと自体、彼にとっては生まれて初めてのことだ。そして、ついにその日を迎えた。
仕事はなにごともなく、予定どおり終わった。だいたい予定が入っている日に限って、何かトラブルが付いて回るのも自他ともに認める泰敏の引きの強さがある。しかし、今日は違ったようだ。
ロッカーからカバンを取り出し、会社の長椅子で荷物を整え一息ついたところで集合場所へ向かった。
「まず最初は、初めましてかな?それとも、こんばんはの方がいいのかな?」
人見知りの性分はその人と会うその瞬間まで、あれこれをいらぬ想像をするものだ。そしていらぬ想像は、初めての人をみつけた瞬間に完全に緊張に支配され、2つを残して想像したことは全て吹っ飛んだようだ。
「はじめまして。今日はよろしくお願いします。」
それまでの想像が嘘のようになくなり、ふたりでお店へ入っていった。
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