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【書評】戦国大名と分国法

分国法は、戦国大名が定めた「自身の領国だけで通用する」法典のこと。
筆まめで多くの私信を残した一部の大名を除くと、行政的な指令や政治的な認可を与える古文書類から大名達の肉声を聞き取ることは容易ではない。

そんななか、分国法からは、厄介な隣国、勝手な家臣、喧嘩に盗みに所有地争い、会議の席順争いや落とし物の処遇まで、現代の私たちからは想像もつかないような猥雑で奇妙な事柄が触れられていて、「おそらく彼らが独り夜中の書斎で頭をひねったり、ブレーンの家臣たちと討議を重ね、苦心のすえに編んであろう」痕跡があり、大名の「深い苦悩や、歪んだ自尊心や、愛らしいいい加減さがしっかりと刻み込まれている」。
また、中世以来の民間習俗・法慣習の壁を超えようと懸命に挑んだ大名たちの姿も垣間見える。

本書は、分国法を通して戦国大名の人物像を考えるとともに、「そうした大名たちを悩ませた当時の中世社会のありようや、民衆生活の習俗など」への興味を誘うことを意図して書かれた書だ。

本書の編著者

清水克行著「戦国大名と分国法」岩波書店刊
2018年7月21日発行

本書の著者の清水克行氏は、1971年、東京生まれ。立教大学文学部卒業、早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。現在、明治大学商学部教授。専攻は日本中世史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

本書の章構成

本書の章構成は以下のとおり。

はじめに──分国法の世界へ
分国法への招待/大名はつらいよ/分国法の基礎知識

第一章 結城政勝と「結城氏新法度」─大名と家臣たち─
乱世の子/「新法度」制定の背景/奇妙な法律/羅列された条文/法の未熟さ/ゴリ押しする家臣たち/炎上する喧嘩/戦場のカオス/家臣への諮問/家臣と大名の合意/ 「古法」の吸収/大名への忠節/政勝のいらだち/その後の結城家

第二章 伊達稙宗と「塵芥集」─自力救済と当事者主義─
“独眼竜”の曽祖父/ 「塵芥集」と「御成敗式目」/連想と借用/たった一人の戦い/誤訳と直訳/ 「塵芥集」の個性/復讐と法律/ 「生口」を探せ/冤罪の晴らし方/生口捕縛の修羅場/落とし物のゆくえ/ 「万民を育むため」/稙宗の有頂天/伊達天文の乱/稙宗の夢のあと

第三章 六角承禎・義治と「六角氏式目」─戦国大名の存在理由─
石垣と楽市の先進性/先進地域の分国法/異形の分国法/大名を縛る法/父子二重権力/日本版マグナ・カルタ/ 「徳政」としての分国法/抵抗する民衆/手ごわい村々/自力救済から裁判へ/訴訟手続き法/戦国大名の存在理由

第四章 今川氏親・義元と「今川かな目録」─分国法の最高傑作─
最強の戦国大名は誰か?/室町時代の地政学/ 「かな目録」の謎/影の制定者は寿桂尼か?/臨終の床での分国法制定?/ 「あとがき」に記された嘘/共同作業で生まれた法/寄物・寄船の法/中分の法思想/喧嘩両成敗法/社会と切り結んだ法/新しい「国家」/今川義元の登場/ 「かな目録」の修正/下人の家族/戦国大名宣言/ 「国民」の創生/義元の統治構想/桶狭間の悲運

第五章 武田晴信と「甲州法度之次第」─家中法から領国法へ─
駒井高白斎の原案/ 「かな目録」の引用ミス/晴信と家臣たち/ 「非理法権天」/二六条本から五五条本へ/ 「自由」と「姦謀」/五五条本はいつできた?/新たなバージョンアップ/村と戦国大名/借銭法度と晴信の死闘/家中法から領国法へ

終章 戦国大名の憂鬱
分国法のねらい/分国法のパラドックス/法廷の現実/戦場と法廷のジレンマ/分国法はいらなかった/彼らが歴史に遺したもの


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