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【書評】江戸の小判ゲーム

本書は「集団間の均衡というゲーム理論的な認識」で歴史を捉えることで「二六五年間に渡って暴動も革命も起こらずに一つの社会体制がそのまま安定的に維持された」理由の検証を試みた書だ。
公儀の使命は社会の均衡を保つこと。そのために幕府の経済官僚たちが行なってきたことを、同時代の資料を解き明かしながら語っている。

本書の著者

山室恭子著「江戸の小判ゲーム」講談社刊
2013年7月2月20日発行

本書の著者の山室恭子氏は、1956年東京生で、東京大学文学部国史学科卒業、同大学院人文科学国史学研究科博士課程満期退学。東京大学資料編纂所助手、年東京工業大学助教授、同教授を経て、現在は東京工業大学名誉教授。

本書の構成

本書の章構成は以下のとおり。

第一章 お江戸の富の再分配
第二章 改革者たち
 1棄捐令プロジェクト
 2町会所プロジェクト
第三章 お江戸の小判ゲーム
終章  日本を救った米相場

本書のポイント

第一章の「お江戸の富の再分配」では、50年に一度の富の再分配はなぜ行われたのかを探っている。
享保、寛政、天保の三大改革期には、商人から武家への富の再分配が公儀の政策として実施されているが、その方式は直接再分配から間接再分配へ移行している。
「ハイリスクで国恩に華麗にフリーライドする商人集団」と「ローリスクで地道に奉公に勤しむ武家集団」という「どちらも単体では存続することが難しい」2つの集団の間で均衡を最適に保つため、江戸幕府の経済官僚達は膨大の努力と献身を積み重ねてきたことを、ゲームの理論的視点に立って本書では語っている。

第二章の「改革者たち」では、「チーム定信」による「棄捐令プロジェクト」と七分積金として名高い「町会所プロジェクト」という寛政の改革の柱となる政策についての政策立案の過程とリーダー松平定信とメンバーとのやり取りが資料に基づいて語られている。

第三章の「お江戸の小判ゲーム」では、改鋳の目的が退蔵貨幣の解消にあり、放っておくと滞留してしまう貨幣の流通を人為的な刺激を定期的に与えて回転を円滑にするために、わざわざ貨幣自体をリセットしたとしている。
貯蓄が出来ないという江戸時代の制度上の欠陥が原因で、時を重ねるうちにしだいに貨幣の退蔵が進み、世に流通する貨幣が減少してしまう
ことへの対策が改鋳にあったことを語っている。

終章「日本を救った米相場」では、慶應二年7月から翌三年4月までの米価急騰と5月以降の急落について分析してされている。
江戸時代の米は財でも貨幣でもあるという特殊な側面を持っていた。
長州との戦争により幕府発行の貨幣に対する信用不安が米保有という形での価値保有に傾く現象を引き起こした。
ただし、米は時間経過とともに価値が低下するという貨幣としての不完全性を有するため、米への品質劣化への懸念から投資家たちが在庫放出に傾き相場は急落した。
終章では、幕末の米相場の一連の騒動の理由を解き明かしている。

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