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BSテレ東の朝の情報番組「日経モーニングプラス」。今朝の「値段の方程式」のコーナーは発電燃料の「LNG(液化天然ガス)」を取り上げました。
キャスターの天明麻衣子さんが「最近、扱ったテーマはサーモンやバナナ、タピオカミルクティーなど身近なものが多かった気がします。今日はLNG、燃料のお話しなんですね」と切り出しました。
そうなんです。普段の生活からはちょっと遠そうな燃料LNGの値段の話。「安いのに高い!?」という不思議を解説しました。

そもそもLNGとは

LNGとは液化天然ガスのことです。天然ガスはマイナス162℃という極低温まで冷却すると「液体」になり、気体の状態と比べて、体積がおよそ600分の1に減ります。この性質が天然ガスの大量輸送、貯蔵を可能にしています。昔はパイプラインでしか輸送できなかったため、利用が限られていましたが、液化させることで運搬・貯蔵が簡単になり、エネルギーとして国際的な取引が増えています。

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上は天然ガスとLNGの体積比をボールに例えたものです。サッカーボール4個分の天然ガスは冷却・液化でゴルフボール1個の大きさになります。

そんなLNGは、どこで生産され、どの国で一番使われているのでしょうか。

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世界のLNG貿易量でみると、大生産国のカタールやオーストラリアからの輸出が多い。輸入量をみますと、実は日本が最大なんです。日本の輸入先は主にオーストラリアやマレーシアです。

日本の電力支える

東日本大震災以降、ほとんどの原発が停止しています。火力発電所の燃料として需要が急増しました。

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発電の供給量割合です。紫色が原発です。2011年以降、ほぼなくなりました。一番下が水力で、一番上の少しだけ出てきているのが太陽光や風力など新エネルギー。残りは全て火力発電です。そのうち赤色がLNG。ここまで増えています。今は日本の電力はLNGが支えているといっても過言ではありません。

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そのLNGは世界的に余っています。そのため、アジアで取引されるLNGのスポット価格は現在、5ドル台半ば。昨冬の暖冬や、アメリカ・オーストラリアなどの供給増を受け、2018年秋のほぼ半値に下がっています。一方、日本の平均輸入価格は9ドル台とアジアのスポット価格の約2倍です。2018年末の高値からの下落率は2割にとどまっています。

長期契約が大半

「LNGが安いのに高い」というのはこのことですね。どうしてなんでしょう。日本では「長期契約」が大半を占めるためです。長期契約というのは、その名の通り毎年一定数量・価格で長期的に引き取るという契約のことです。公正取引委員会の2017年の調査によれば、日本のLNG輸入の8割は、この10年以上の長期契約です。

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天明さんが「8割も長期契約なんですね。1回の取引ごとに成立するスポット価格であれば、もっと安値で仕入れられたはずなのに、なぜこうなってしまったのでしょうか」と聞いてきました。
もともとLNG輸入が始まった当初は、独自の価格指標がありませんでした。そこで原油価格が指標に使われるようになったとされています。
供給過剰でスポット価格が下がっても、長期契約の日本は輸入価格への恩恵を受けにくくなっています。

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契約期間は数十年に及ぶ例も多く、調達方法を改めようとしても時間がかかります。割高な輸入価格は電気料金を押し上げ、家計に響きます。

「素材の内容と思ったら、やっぱり値段の方程式は身近なモノのお話しなんですね」と天明さん。そうです。どんなモノやサービスの値段でも我々の生活と無縁なものはありません。ここが価格取材の面白さです。
ちょっと話がそれました。LNGは環境負荷が石炭や石油など他の化石燃料より低いメリットがあります。

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二酸化炭素や硫黄酸化物の発生量の比較をみると一目瞭然。欧州では石炭からのエネルギー転換が加速しています。パイプラインを使う天然ガスは安く価格競争力もあります。でも、日本のように輸入価格が割高なままでは石炭からのエネルギー転換も進みにくいのが現状です。

今日の値段の方程式はこうなります。

LNGの値段は……日本の調達手法次第 です。

ここでキャスターの八木ひとみさんから「調達手法って、見直せないんですか」と質問されました。日本でも調達手法を見直す環境は整ってきました。
ひとつは米国によるシェールガス輸出の急増です。米国は従来の輸出国と違い、米国内のガス価格に連動した取引を主流としています。国際的なスポット価格もこれに連動しています。
さらに2020年代前半にカタールとの長期契約など複数の大型案件が切れます。これも契約見直しの契機になりそうです。
もちろん、LNGの安値がいつまで続くかは不透明です。時にはスポット価格のほうが割高になってしまうこともありますから、すべての契約を変えればいいわけではありません。それでも世界の需給状況の変化に対応しなければ消費者に安値の恩恵が届かない。柔軟に価格を見直せる仕組みづくりが必要不可欠になっています。


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