複業にトライ

「都市⇔地方」の複業で大切なものは パソナ加藤部長に聞く(複業にトライ)

人口減少や高齢化で地方の人手不足が深刻になってきた。解決手段として注目されるのが複業だ。都市部で働きながら、地方でも働くという新しい複業のスタイルが広がっている。地方創生の一翼を担うため、複業に期待されている役割も大きい。パソナの加藤遼ソーシャルイノベーション部長に現状と課題を聞いた。

■人材不足が深刻な課題
ーー地域活性化や地方創生について御社の取り組みは。
当社は人を活かすための事業として地域活性化事業に取り組んでいる。地方に子会社を設立し夢ある産業を作り、事業を拡大していく。雇用も増やしていく。最も大きいのが兵庫県淡路島の地方創生事業。廃校を活用したレストランやグランピング施設などを開業している。自分の担当としては東北に力を入れてきた。震災で職を失った人と人手不足の企業のマッチングだ。東北未来戦略ファンドをつくり、起業家を発掘・育成する。
いったんパソナが雇用し半年から1年間、地方創生の現場で経験を積んでもらう。半年後にプレゼンして子会社の社長にする。これまでに4社が誕生した。

ーーやはり課題は人手不足か。
人口減少や少子高齢化による人材不足が地域の深刻な課題になっている。良質な雇用創出に加え、それを持続可能にするためには人材不足が足かせになる。
解決のため2つのアプローチを考えた。1つが地域で個人で働くやり方。地域でも個人で自己表現する雇用を増やしていく。2つめが東京、あるいは世界の都市部から移住や継続的にかかわる人を増やす。旅するように働く人たちをどれだけ地域に送り込めるかだ。
やっていることはシンプル。地方の個人にシェアエコノミーで稼いでもらう。当社は地方の産業に詳しい。まずは観光分野から取り組んだ。2016年にシェアリングエコノミー協会と「地方創生実現に向けた包括的連携協定」を結んだ。17年春にエア・ビー・アンドビーと提携し、ホームステイでインバウンドを受け入れ、体験ホームシェアなどを始めた。自治体も研修や市民向けにプログラムを提供し始めている。
私も内閣官房シェアリングエコノミー伝道師として各地の事例をみている。いくつか紹介したい。岩手県釜石市で19年にラグビーのワールドカップが開かれる。スタジアムの収容人員が1万6000人なのに対し、市内の客室可能数が全然足りない。そこでホームステイを活用し客室不足を少しでも補う。一関市では地域に住む人の「能力のシェア」を目的に、人が出会う空間としてコワーキングスペース「一BA(いちば)」を開設した。
ただ、地域に個人で働ける仕事を作るのも壁に当たった。地域では個人も減っているのだ。岩手県の事業では「遠恋複業課」を立ち上げた。

岩手にかかわる人を増やす狙いだ。首都圏をはじめ都市部から離れた岩手県との複業は、遠距離恋愛をする恋人関係に似ている。観光以上、移住未満。人間関係で例えると「友達以上、恋人未満」といったところだ。その土地に住みはしないが、年間何回も訪れる。観光客のように現地で消費する人ではなく、生産者としての人材を増やすのが狙いだ。「食べる」「泊まる」「お金払う」ではなく、地域の人とともに事業をする。そうなると、やはり複業が有力な選択肢になる。観光客が来すぎて困っている観光地も増えてきた。複業で地域に人を呼び込み生産者を増やしたい。

ーーマッチングのために工夫していることは。
岩手の「遠恋複業課」の場合、2回の講座を受講したあと、フィールドワークで現地の人の熱意や仕事の雰囲気をつかむ。参加者は現地の人々の思いに心をつかまれる。関係人口が広がる。これを全国でやっていけたら面白い。
一方、複業の人に手伝ってほしい地域と複業に関わってみたい人のマッチングのシステムが足りないのを課題として感じている。地方の方が複業の個人に発注するシステムがうまくできていない。どう発注していいかわからない。
都市部で複業で働く人が増えている。たとえば旅行やレジャーというとらえ方だ。地域資源を活用したビジネスが生まれ、いいストーリーになる。地域には漁師と民宿経営など、マルチワーカーがすでにいる。
離島のガイドやホタテの加工など、都市部にはない職種も多い。参加している人は稼ぎにこだわっているわけではない。多少、報酬があって旅費が浮けばいいという人もいる。自分の存在価値を認めてくれる場所で働く。その自信が本業にも生きてくる。絶妙なバランスがとれればうまく回っていく。

■キーワードは「人のマッチング」
ーー手法も変わってくる?
いままではスキルのマッチングだったが、今後は人のマッチングが重要になると思う。これまでの人材のマッチングは人からスキルを抽出し、企業の求人情報から抽出したものと照らし合わせてマッチングしてきた。
都市部⇔地域になると人柄や思いといった情報が重要になる。オンラインではやりとりできない。もちろんベースのスキルはあったほうがいい。働く側、仕事を出す側の思いが伝わる情報を出して、興味を持ったら会いに行く。
社長さんや従業員の表情などがマッチングの際に重要なファクターになる。その土地の食事や雰囲気を現地にいって五感で感じる。
人材サービス業界の傾向として情報をデータを入力してきてAIを導入してマッチングする手法が広がってきた。一方で本当に大切なものはなにか。「志や思いを共感して一緒にやりましょう」ということではないか。「まず一緒にやりましょう」から始まって、じゃあ、何をやりますかを一緒に考える。人に言われたことをやるのではなく、自ら仕事を作っていくという働き方にもつながる。
そもそも私の根底には地方の生活分野や伝統、信仰が衰退するという危機感がある。人材交流を増やし、地域に人を呼び込みたい。複業したいという人の課題を解決しながら、地域の課題も解決できる。活躍の場は地方にいっぱいある。すごく面白い取り組みだと思う。

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