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変わる定期券価格 利用者数に応じ変動へ

世の中の様々な値段がどうやって決まっているのかを解き明かす「値段の方程式」。今回のテーマは「変わる定期券価格 利用者数に応じ変動へ」です。世の中は値上げの話題であふれていますが、こんな値下げのニュースがありました。

北総鉄道は東京都の東部と千葉県の北西部を結んでいます。長年「運賃が高い」といわれていた路線ですが、運営会社の累積赤字の解消にめどが立ったため大幅な値下げに踏み切りました。
初乗り運賃も下げていますが、インパクトがあるのは通学定期券ですね。

北総鉄道は「子育て世帯を支援する」として、およそ3分の1に値下げしました。今回は一つの鉄道路線だけではなく、これから都市部を中心に広がるかもしれない定期券の値段の変化の話です。

値段の方程式
BSテレ東の朝の情報番組「日経モーニングプラスFT」(月曜〜金曜の午前7時5分から)内の特集「値段の方程式」のコーナーで取り上げたテーマに加筆しました。

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JR東日本が「オフピーク定期券」

JR東日本は来年3月からラッシュの時間帯を避けて乗車する「オフピーク定期券」を導入すると発表しました。平日朝のピーク時間帯(1時間30分)は使えないかわりに通常の定期券に比べて約10%安くなります。オフピーク定期券はSuicaの通勤定期券のみで、紙の定期券(磁気の定期券)や通学定期券には設定されません。

「オフピーク」の対象となる時間帯は平日の朝で混雑する時間帯を各駅で1時間半設定する見通しです。例えばJR新宿駅の場合、混雑時間帯が午前7時半~9時に設定されます。この時間帯を避けて入場すれば、オフピーク定期券が有効となります。
会議などがあってどうしてもピークの時間帯に乗らないといけないときはオフピーク定期券が使えず通常の運賃がかかってしまいます。計算上は月に3回までならオフピーク定期券のほうが得になるということです。

利用者のピークシフト促す

オフピーク定期券がこれまでの定期券より安くなるならその分、
JR東日本は減収になります。そこで通常定期券は1.4%値上げし、減収分を補います。
 導入の狙いや定期券収入への影響についてJR東日本で取材しました。話を聞いたのは鉄道事業本部の加茂さん。切符や定期の値段に関する業務に長年携わってきた、運賃のスペシャリストです。
加茂さんは導入の狙いについて「朝と夕方に通勤によるラッシュ時間帯とあります。これまでは(定期券価格に)手をつけられなかったが、価格差をつけることで、お客さんのピークシフトを促そうという考えがあります」と話します。
JR東日本の定期券の運賃収入はプラスになるんでしょうか、マイナスになるんでしょうか、ズバリ聞きました。「今回は運賃を上げることで増収を図るというものではない。事前に企業や従業員の皆様にアンケートをとり、想定されるオフピーク定期券の発売枚数を推定した。値下げになる部分を賄うために値上げもするが、(増収にならないよう)バランスを考慮したところで決定した」(加茂さん)そうです。JR東日本は従来の定期券から10%程度がオフピーク定期券にシフトすると試算しています。
オフピーク定期券で企業は交通費負担を減らせます。働く人はラッシュが緩和され、快適に通勤できます。でも増収にはならないJR東日本にとって、どういったメリットがあるんでしょうか。
オフピーク定期券の導入でラッシュ時の混雑が緩和。駅員の負担が軽減されるなどの効果がきちんと表れてきたら、将来的にはラッシュ時間帯に駅に配置している人員を減らしたり、運行本数を減らしたりするのも検討するということでした。
つまり将来のコスト削減効果も見据えています。背景にはコロナ禍で減った定期券収入が元の水準には戻らないという見方があります。リモートワークの広がりでJR東日本を含む鉄道大手18社の定期券収入はコロナ前と比べて2割減少しています。少子化の影響で徐々に減少していく見通しでしたが、コロナで需要の減少ピッチが早まった形です。JR東日本は鉄道事業で2028年3月期までに1000億円のコスト削減を掲げています。

ここできょうの方程式です。

「ダイナミックプライシング」の導入も

 鉄道以外では利用状況に応じて価格が変動する「ダイナミックプライシングの導入が進んでいます。

JR西日本傘下で高速バスを運行する西日本ジェイアールバスは長距離バスの平日の利用を促すため、これまで最低3500円だった東京ー京阪神間の運賃を予約状況に応じて2500~2900円に引き下げることを発表しました。

海外事例に見る交通機関利用促進策

日本では10月中旬から「全国旅行支援」が始まりました。観光業支援のために国が補助金を出して旅行を促します。海外の取り組みも参考になるケースがあります。
ベルギーのブリュッセルでは年間499ユーロ(7万2000円)だった市内乗り放題の年間定期券を、今年2月から24歳以下の若者限定で年間12ユーロ(1700円)と破格の安値で発売しています。ちなみに12歳未満は無料です。オーストリアでは国内全ての公共交通機関が乗り放題となるチケットがあり値段は年間約1095ユーロ(16万円)。普通電車はもちろん、長距離列車や地下鉄、路面電車、バスなどの公共交通機関が乗り放題です。

これらの取り組みは公共交通機関による移動を促し温暖化ガスの排出を減らす。さらに移動による沿線の経済活性化や国民の経済的負担を減らすという注目の交通政策です。

こういった長期の割引定期券の発行に補助金を出すことでお盆や正月といったピークのシーズン以外にも移動を促すような取り組みを考えても面白いのではないでしょうか。


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