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第八回:出版ってなんだろう?

デジタル出版を視野に入れることで、近代で固まりつつあった「出版」のイメージをいったんリセットして、再出発する。
第七回:古くて新しい出版|倉下忠憲|note

近代になって高度に発達した産業としての出版は、本来「出版」という言葉が指し示す範囲の一部でしかない、と言い換えることもできるでしょう。事業として行うことだけが「出版」ではありません。誰かに読んでもらうことを目的として書(描)かれているなら、巻物に墨で綴られた物語も「出版」でしょうし、Twitterのつぶやきだって「出版」です。

ちょっと前から考えていたことを、チャートにしてみました。書(描)き手から見た広義の出版メディアの位置づけです。横軸に「お金」、縦軸に「固さ」という概念で分類してあります。これは、松野美穂さんが以前投稿されていた「絵を描くということ」のチャートを参考にしています。松野さんのチャートは、縦軸が「自由に描く」か「指示されて描く」かという観点です。

「お金」の軸については、貰って書(描)くメディアもあれば、タダで書(描)くメディアも、払って書(描)くメディアもある、ということにあまり異論は出ないでしょう。左下の「自費出版」については、同人誌即売会の壁サークルのように「いやいや、ちゃんと儲かっているよ」という方もいるでしょうけど、ほとんどの場合は持ち出しですからこの位置です。左へいくほど趣味的要素が強くなる、と言ったほうがいいかもしれません。仮にお金を使ってなくても、膨大な時間を費やしているとしたら、左に位置づけられそうです。

「固さ」の軸というのは、私がそのメディアに対して抱いているイメージを意味します。紙への印刷はがっつり固定化され取り返しがつかないのに対し、ウェブへの投稿はおおむねコピー&ペーストや修正も可能です。また、たとえば「Twitter」のつぶやきは、あまり深く考えずに脳と指先が直結したような発信が多いので、とても柔らかいイメージがあります。逆に「書籍」は、くり返し推敲して余計な表現を削ぎ落としたり言い回しを変えたり、他者のチェックも入ったものが多いので、とても固いイメージです。いわゆる「電子書籍」は、その中間です。

縦をデジタル / アナログという軸にしなかったのは、同じデジタルメディア / 同じアナログメディアの中でも、メディアの性質には違いがあるからです。例えば「新聞」は速報性を求められるため事実をストレートに伝えるものが多く、あまり内容を練ったり固めたりしていないイメージがあります。「雑誌」は「新聞」と同じアナログメディアですが、速報性はあまり求められていないので、調査や論考に「新聞」より時間がかけられており、より固いイメージがあります。

ちょっと特異な例として、あえて「YouTube(r)」を右上に置いてみました。ここでの表記はメディアの呼称で統一しているので、rは括弧書きです。私は、映像表現を公にすることも広い意味の「出版」だと思っています。英語の「publish」と言ったほうがわかりやすいでしょうか。お金を実際に稼いでいる人だけがYouTuberと呼ばれると思うので、「お金」の軸は右側です。YouTuberが柔らかいというのはあくまで私のイメージであって、台本をきっちり用意した上で収録した映像をがっつり編集してから公開するYouTuberがいるなら、もう少し下に位置づけるべきでしょう。

そして、事業として行われている伝統的な「出版」というのは、右下だけを指している、というわけです。「まとめサイト」のような、金儲けを目的として軽薄短小な記事を発信し続けている存在は、右上に位置づけられます。「キュレーションメディアと真逆の方針で1年間 WEBメディア運営を続けてみた結果」として大赤字になってしまった「SPOT」は、左の真ん中あたりになるでしょうか。Twitterに常駐して膨大な時間と熱意を注ぎ込んでいる人などは、左上に位置づけられそうです。

こういう形で「出版」を位置づけ直してみたところで、そろそろ倉下さんにバトンを渡してみます。

倉下さんの原稿へ続く

最後までお読みいただきありがとうございました。