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ここはどこか・渋谷系とJ-POPの狭間で(1993)

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*1993年の出来事:ビル・クリントン、アメリカ合衆国大統領に就任 / 世界貿易センター爆破事件が発生 / 皇太子徳仁親王と小和田雅子の結婚の儀が行われる / 曙が外国人力士として初めて横綱に昇進 / 新幹線「のぞみ」が山陽新幹線で運行開始 / 福岡ドームが完成 / レインボーブリッジが開通 / ジュリアナ現象 / スケーター・ボーダーファッション人気 / 小学生男子を中心にハーフパンツが定着。長ズボンに駆逐されつつあった半ズボンがほぼ消滅 /

1993年の最初の大きな仕事は、さくらももこ原作のTBSドラマ「谷口六三商店」のサントラ録音だった。ソロワーク以外では初めての音楽制作の仕事だった。

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坂本龍一さんの「戦場のメリークリスマス」のサントラや、細野晴臣さんの「銀河鉄道の夜」のサントラが大好きだった自分にとって、サントラは憧れの仕事だった。「谷口六三商店」の主題歌は再生YMOの「ポケットが虹でいっぱい」だった。さくらさんの趣味も反映されたキャスティングだったんだと思う。

1〜2冊の脚本と登場人物のキャラクターの説明だけで、映像もほとんどない状態から40曲ほどの曲を録り下ろす膨大な作業量だったが、まず登場人物それぞれにキャラに合ったテーマ曲を考え、そこからバリエーションを膨らませたり、たとえばドタバタしているところ・感動的な場面等、色々なシーンに合った曲を作る方法で広げて行った。

子供の頃観ていた数々の名作ドラマの音楽は脳内に焼き付いていて、同じメロディのモチーフをテンポやキーやアレンジを変えることで違う雰囲気に仕上げる手法などもイメージしやすかったので、コツを掴み始めたら曲書きそのものは割とスムースだったように思う。CM音楽として請け負った「虹の都へ」もそうだが、うまくハマったクライアントワークは先導するイメージがはっきりしている分、やりやすいのかもしれない。

原作のさくらももこさんと演出の故・久世光彦さん(子供の時、「ムー一族」や「時間ですよ」が大好きだった。悠木千帆さんこと樹木希林さんにも合掌)による、ユーモラスで時にホロリとさせる物語と、僕のシンプルな(80年代テクノのテイストも多々ある)音楽のマッチングは悪くなかったと思う。最終回にカメオ出演したとき、谷口六三役の泉谷しげるさんに「サントラ、上手いな」と褒めてもらったのは嬉しかった。

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*最終回の収録後の全員集合写真

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*嬉しかったので、新聞を切り抜いて取ってあった


今年2018年8月にさくらももこさんが他界した。「おどるポンポコリン」は平成初のミリオンセラーヒット曲。ちびまる子ちゃんは平成のアイコンだった。

個人的には「アミ・小さな宇宙人」の挿絵が印象深い。今年初め、友人の勧めで久しぶりに「アミ」を読み返した。2巻、3巻は実はこの時初めて読んだ。日本ではさくらさんの挿絵によって「アミ」は子供向けの物語のイメージが強いが、2巻・3巻と読み進めていくと、実に哲学的な本だったことをあらためて知った。

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さくらさんの仕事にはいつもそんなふうに、可愛らしい絵の向こう側にサブカル的、時にスピリチュアルな世界観が込められていて、平成のポップカルチャーの触媒だった。あらためて、ご冥福をお祈りします。

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