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noteに投げ続けた曲から生まれたアルバム「Everything is Good」 / のんデビュー曲「スーパーヒーローになりたい」制作 (2017)


*このエッセイはデビュー30周年の2018年のエピソードまで連載を続ける予定です。このページ単体で¥200でも読めますが、¥3000でマガジン「ずっと、音だけを追いかけてきた」をご購入いただくと過去と今後更新の30年間全ての連載記事(全42話・予定)を読むことが出来るのでおすすめです。
*2017年の出来事:ドナルド・トランプの第45代アメリカ合衆国大統領当選が正式に決定 / 金正日の長男・金正男氏がマレーシアで殺害される /
推計60万人以上に及ぶロヒンギャ族がバングラデシュに避難 / 史上最年長プロ棋士(当時77歳)加藤一二三九段が現役を引退 / 史上最年少プロ棋士(当時14歳)の藤井聡太四段が公式戦の新記録となる29連勝を達成 / 「インスタ映え」「忖度」が新語・流行語大賞の年間大賞を受賞 / 九州北部豪雨 / 天皇陛下の退位を一代限りで認める特例法が可決・成立し、およそ200年ぶりに日本の天皇が生前退位することに


2013年に始まった「京都精華大学ポピュラーカルチャー学部音楽コース特任教授」という長〜い名前の新しい仕事。当初はぎこちなかった新米教授も、2015年以降毎週月・火と3コマ(=約5時間)の授業を3年間続けて、どうにか先生らしくなってきた。教える内容も教え方もすべて自分で決めていく。教えることが、自分にとっての学びでもあった。

大学に行くまでずっと、自分にとって心地のよい、興味の持てる音楽だけを選り好みして聴いてきた。食事に行けば誰だって、自分が苦手なメニューを敢えて選んだりしない、当たり前のことだ。大学生と接することでそれまで手を伸ばさなかった音楽を好むと好まざるとにかかわらず聞くようになって、「聞かず嫌い」が減った。

前述の通り、僕の授業は「ソングライティングの制作実習」、つまり学生に自作曲を作ってもらう時間。大学生という「アマチュア」の作品を大量に聞き続けることになる。気づけば音楽の仕事を始めてから今まで、これほど大量にアマチュアの作品を聴いたことはなかった。学生の作品だから、当然出来は芳しくないものも多い。

それまでの自分は興味の持てない音に触れると、まずアラ探しから入ってしまう癖があった。そんな否定的な耳で学生の未完成な音を聴いても楽しくないし、欠点だけを指摘されたら学生も落ち込むだろう。教育は文字通り子育てのようなもので、できなくて当たり前の彼らに根気よく向き合う仕事でもある。

そんなわけで自分の好みは一旦置いて、まっさらな気持ちで学生の作品を聞くようになった。どんなに拙い作品でもいいところは必ずある。要は誰かと比べないこと。まずその作品の美点を探して褒めることから始めた。「上手い下手」ではなく、個性や他の学生にない特徴が見つかったら真っ先にそこを伝えて、その後に「ここを変えるともっと良くなるよ」とアドバイスした。大半の学生は、素直に耳を傾けてくれるようになった。

もちろん、全員がまっすぐな性格とは限らない。閉ざした心をなかなか開いてくれない学生、根拠のない自信とプライドがあって人の話をまったく聞かない学生、どうしてこの授業を取ったの?と聞きたくなるくらいやる気のない学生、休みがちで一向に課題に取り組まない学生、特に理由はないがなかなか気が合わない学生、そんな彼らとも向き合うのが務め。

自分が学生だった頃を思い返せばそんな連中もよくいたし、自分自身も大学の時は特定の先生にはひどく反抗的だったから、無自覚な学生のそんな感覚はよく分かる。因果応報である(笑)

七転八倒、時に悪戦苦闘の大学での5年間を通じて僕は聞き上手になったと思う。接点が薄い初対面の人と会話するのにも怖気づかなくなった。ずっと過ごしてきた音楽業界の狭さを嫌という程知った。エイリアンのように遠い存在だった今の学生と接することで新しいペルソナを獲得できた。何より得難い経験だったと思う。

「自分も大学の時はこんなだったんだよ」と伝えたくて、学生の頃の作品を学生に見せたり聞かせたりもした。たとえばこんな。

ものづくりにかける情熱は学生時代から変わらないが、あの頃はずっと不器用で時にとんがっていて、昔の自分は今や古い友人のようにも感じる。デモテープのカセットの音色や当時の歌詞のノートに彼らも興味を持ってくれたし、高野寛という30年前の大学生の作品を聞くと、大学で学生の曲を聞いているのと似た気持ちにもなって、「こいつおもしろいな」と思えた。

*学生時代の音源をまとめたnoteはここに↓

学生や昔の自分、つまり若い人たちの作品にふれると「最近のオレ、遊びがないな」とも感じた。完全無欠の曲を作ろうと欲張って盛り込みすぎたり、歌詞で伝えようとしすぎたりして聞き手のイマジネーションの自由を奪っていたり。仕上げるための技術はもう十分あるんだから、もっとラフでも良いんじゃないか?と思えた。だんだんと肩の力が抜けて、フレッシュな新曲が書けるようになってきた。

「a capella」という動画制作アプリを学生に教えてもらって、気分転換に自分でも何曲か撮ってみたりもした。「もういいかい」という新曲は、大学生と向き合う日々から生まれた曲だ。

過去の未発表音源の中に埋もれていた原石が沢山みつかった。片っ端からnoteにUPしてみようと思った。時に、手を加えながら。


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