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ライド『Nowhere』『Going Blank Again」再現ライブレポ

Photo by Kazumichi Kokei

英国オックスフォード出身の4人組RIDEの来日ツアーが4月、東京と大阪にて開催された。

今回のツアーは、1990年にリリースされた彼らのファーストアルバム『Nowhere』と、1992年にリリースされたセカンドアルバム『Going Blank Again』の再現ライブが東京・恵比寿LIQUIDROOMにて日替わりで行われるというもの(大阪・梅田CLUB QUATTROは、『Nowhere』再現ライブのみ)。全ての公演がソールドアウトになったことを受け、東京では恵比寿ザ・ガーデンホールにて初期のベスト盤『OX4』(2001年)をメインに構成された、追加公演も開催されるなど盛況を博した。

僕が観に行ったのは恵比寿LIQUIDROOMで開催された、4月19日の『Nowhere』再現ライブと20日の『Going Blank Again』再現ライブ。両日とも彼らを1990年代から知る40代〜50代と、後追いで知ったそれよりも下の世代が満遍なく会場を埋め尽くしていた。

Photo by Kazumichi Kokei

まずは「Seagall」から始まる『Nowhere』再現ライブ。バンド名の由来にもなった、ライドシンバルがシャンシャンと8ビートで鳴らされるお馴染みのイントロが流れ出すと、分かってはいたけれども気持ちが高揚せずにはいられない。早くもフロアのあちこちから大きな歓声が湧き上がる。続いてバンドのリーダー、スティーヴ・ケラルト(Ba)によるザ・ビートルズ「Taxman」オマージュのベースラインが繰り出され、マーク・ガードナー(Vo、Gt)とアンディ・ベル(Vo、Gt)が一斉にギターをかき鳴らし目の前にウォール・オブ・サウンドを展開。さらにマークとアンディによる、ザ・バーズの「Eight Miles High」を彷彿とさせる美しいハーモニーが会場いっぱいに広がり、会場は一気に1990年へとタイムスリップした。

続く「Kaleidoscope」は、本作の中でもとりわけ疾走感あふれるナンバー。朗々としたメロディとは裏腹に、眩いばかりのギターオーケストレーションがドライブ感たっぷりのリズムセクションに煽られキラキラと加速していく。特に“ロズ”ことローレンス・コルバート(Dr)によるドラミングは圧巻で、機関銃のようなフィルインを終始叩き込むその姿はまるで千手観音のようだ。今回、こうやってファーストアルバムを曲順どおり改めて生で聴くことによって、この頃のライドの「アンサンブルの異様さ」を再認識することができた。ビートルズやバーズといった、1960年代のロックに影響を受けた彼らのメロディやコード進行は至ってオーソドックスだが、「ドラムがメイン楽器」と言っても過言ではないほど前面にフィーチャーされたアレンジは、奇妙でイビツとさえ感じるほどだ。

Photo by Kazumichi Kokei

アンディによる美しいアルペジオが印象的な「In A Different Place」も、フロアタムの連打から始まりセクションごとにドラムパターンを変化させ、楽曲をドラマティックに演出する。そして、そんな奇妙でイビツなアンサンブルを低域で支えているのがスティーヴのベースだ。レゲエに影響を受けたという彼のフレージングは、要所要所でフックを効かせながらも極めてシンプルで、マークとアンディによるハーモニーやギターオーケストレーション、そして手数の多いロズのドラムに対して接着剤的な役割を担っている。

また、マークのトレモロギターとE-Bowを駆使したアンディのメロディックなギター、そして2本の弦を同時に弾いてアンサンブルに浮遊感を醸し出すスティーブのベースが映える「Polar Bear」や、静と動を行き来するアレンジが、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの「Cigarette in Your Bed」とともにシューゲイザーの“ひな型”となった「Dreams Burn Down」では、ヒップホップのブレイクビーツを思わせるようなリズムパターンを繰り出すロズ。以前、アンディは「人生を変えたアルバム」としてマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの『Isn't Anything』(1988年)を挙げ、あの作品におけるヒップホップからの影響について言及していた。おそらくライドも当時、デ・ラ・ソウルやパブリック・エナミーらのグルーヴを自らのサウンドに取り入れ、アシッドハウスに傾倒していた他の同世代ギターバンドとは一線を画そうとしていたのではないだろうか。

Photo by Kazumichi Kokei

上述した「人生を変えたアルバム」でアンディはザ・キュアーの『Seventeen Seconds』も挙げていたが、その収録曲「Play For Today」に通じる“ライド流ポストパンク”とでもいうべき「Decay」を、赤い照明の下でスリリングに披露。さらに、マイナーとメジャーを行き来するコード進行がサイモン&ガーファンクル辺りを彷彿とさせる「Paralysed」を演奏した後、名曲「Vaper Trail」のイントロをアンディがギターでかき鳴らすと再び大きな歓声が上がる。彼の少しくぐもった、それでいて透明感のある歌声に、マークの少し鼻にかかった特徴的な歌声が混じり合い、魔法のようなハーモニーとなって天から降り注ぐ。静謐なアンサンブルに、いつしか躍動感あふれるドラムやストリングが重なり壮大なクライマックスを迎えた。

ここからは、CD盤に収録されたボーナストラックを演奏。「Taste」ではロズが、アクセントを細かくずらしながら次々とフィルを繰り出し、アンディによるきらびやかなギターアルペジオと有機的に混じり合う。そして、マークによるハーモニカと哀愁漂うメロディが印象的な「Here and Now」を経て、13thフロア・エレベーターズもかくや、と言わんばかりのヘヴィサイケ曲「Nowhere」で本編は終了。アンコールでは、2017年のアルバム『Weather Diaries』から冒頭曲「Lannoy Point」、セカンドアルバム『Going Blank Again』から「OX4」を披露し、現在レコーディング中のニューアルバムから未発表の新曲「Monaco」を経て、明日の1曲目を飾るであろう「Leave Them All Behind」を、まるで予告編のように演奏しこの日のライブを終えた。

Photo by Kazumichi Kokei

1.Seagull
2.Kaleidoscope
3.In a Different Place
4.Polar Bear
5.Dreams Burn Down
6.Decay
7.Paralysed
8.Vapour Trail
9.Taste
10.Here and Now
11.Nowhere
(Encore)
12.Lannoy Point
13.OX4
14.Monaco
15.Leave Them All Behind

翌日、同会場で開催された『Going Blank Again』再現ライブは、オープニング曲として『This Is Not a Safe Place』(2019年)の冒頭を飾るインスト曲「R.I.D.E」が爆音で流れてスタート。フロアに手を振りながら現れた4人に大きな歓声と拍手が上がる。「こんにちは、TOKIO!」とマークが挨拶し、ザ・フーの「Baba O'Riley」を彷彿とさせるシーケンスフレーズが流れ出す。曲はもちろん、昨夜のトリを飾った「Leave Them All Behind」。本作のプロデュースを務めたアラン・モウルダーが、「これはライド流のプログレだ!」とレコーディング中にコントロールルームで叫んだという曰く付きのナンバーだ。音源では2分を超える、長いイントロに続いてマークとアンディのハーモニーが響き渡ると再び大きな歓声が。赤いレーザー光線が飛び交うなか、エンディングに向けてじわじわと盛り上げていくアンサンブルが圧巻だ。

Photo by Kazumichi Kokei

続く「Twisterella」は、ヘヴィかつカオティックな「Leave Them All Behind」から一転、Sus4を多用したアンディのアルペジオギターと軽快なリズムセクションが印象的なギターポップ。写真家クリストファー・ガンソンによるコラージュ的なアートワークが象徴するように、本作『Going Blank Again』は、シューゲイザーの代表作となった『Nowhere』の詩的で統一感あふれるサウンドプロダクションとは打って変わり、様々なアレンジの楽曲が詰め込まれたバラエティ豊かな作品。例えば「Not Fazed」では、ニール・ヤングの「Cinnamon Girl」を彷彿とさせる歪んだギターリフを前面に打ち出し、「Chrome Waves」では変則チューニングを施した(であろう)赤いリッケンバッカーをアンディがかき鳴らし、パッドシンセと共に幻想的なサウンドスケープを構築していく。

そして、「Twisterella」と並び本作中最も軽快かつポップな楽曲「Mouse Trap」の、延々と繰り返しながら高みへと登っていくコード進行と、アンディ&マークによる「ウーアーコーラス」のリフレインにより会場はこの日最初のピークを迎えた。さらにチョーキングを駆使したアンディのギターリフと、前作収録の「Kaleidoscope」にも通じるローレンスの千手観音ドラムが炸裂する「Time of Her Time」、リズムが倍になったり半分になったり、変拍子を挟んだりしながらエンディングへと向かっていくロマンティックな「Cool Your Boots」と畳みかけ、オーディエンスをアルバムの世界へと深く誘い込む。

ここで、箸休め的なバーズ直系の「Making Judy Smile」。中期ビートルズを思わせるインド風味のギターソロに酔いしれるも束の間、厳かなオルガンに導かれ、レゲエ〜ダブの要素を取り入れたスティーヴのベースラインが印象的な「Time Machine」で、再びディープなアルバム世界へ。昨夜のアンコールでも披露した「OX4」の、ストロボが点滅するなかフィードバックギターを折り重ねていくシューゲイズサウンドに酩酊感が襲う。ファーストに比べ、『Going Blank Again』はソングオリエンテッドなアルバムだと思っていたが、こうやって改めて聴くとインストゥルメンタル部分がかなり多く、メロディは「楽器の一部」としてアンサンブルに組み込まれており、実は『Nowhere』に負けず劣らずサイケデリックな作品だということに気付かされた。

Photo by Kazumichi Kokei

「ここで1曲、ボーナストラックをやるよ」とマークが言い、演奏されたのは「Grasshopper」。1992年にリリースされた7曲入りの同名EPタイトル曲だ。キンクスを彷彿とさせるヘヴィなギターリフで始まり、寄せては返す波がやがて大きな津波となり押し寄せてくる。卓越したバンドの演奏力に裏打ちされた、まるで一遍の映画を見ているような10分を超えるこのインストナンバーは、モグワイのファーストアルバム『Young Team』より5年も早いポストロックと言ってもいいだろう。

ライブでも滅多にお目見えしない「Grasshopper」に、興奮冷めやらないフロア。アンコールでは、昨日と同じく「Lannoy Point」をまず披露した後、『This Is Not a Safe Place』収録曲「Kill Switch」を挟んで未発表の新曲「Monaco」を演奏。さらに「Taste」「Vapour Trail」と『Nowhere』の人気曲でフロアを沸かせ、記念すべきデビュー曲「Chealsea Girl」で幕を閉じた。

昨日、今日と終演後に坂本龍一&デヴィッド・シルヴィアンによる「Forbidden Colours」を爆音で流し、先日亡くなった坂本龍一への追悼の意を表していたライド。曲が終わると、フロアからは自然と拍手が沸き起こったのも印象的だった。

Photo by Kazumichi Kokei

1.Leave Them All Behind
2.Twisterella
3.Not Fazed
4.Chrome Waves
5.Mouse Trap
6.Time of Her Time
7.Cool Your Boots
8.Making Judy Smile
9.Time Machine
10.OX4
11.Grasshopper
(Encore)
12.Lannoy Point
13.Kill Switch
14.Monaco
15.Taste
16.Vapour Trail
17.Chealsea Girl

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