いない 29 ばいばい (終)

(※性暴力の描写があります)(つらそうな方はどうぞ無理せず)


 「幼馴染の女の子」は、水路の上で、「とにかく、」と、私に言った。

 「とにかく。女の子にするように男の子に接すると、勘違いされちゃうんだから。
 そしたらすごくめんどくさいよ。**ちゃんは、めんどくさいの嫌いでしょ。気をつけて。」
 と、私に言った。

 私は、
 「わかった。」
 と、「幼馴染の女の子」に、答えて言った。

 「幼馴染の女の子たち」は、苦笑いして、
 「**ちゃん、いっつも、返事だけは、いいからなあ……。心配だなあ。」
 と、私に言った。

 私は、
 「大丈夫。」
 と、「幼馴染の女の子」に言った。

 「幼馴染の女の子」は、笑って、
 「信用できない……。」
 と、格子の上に尻をつけ、折り畳んだ膝の上に、彼女の片腕と頭を乗せながら、私を見た。

 私は、まず、目に入るものを、ばらばらから、かたまりにする。
 次に、ものと、人間の、区別をつける。
 そして、人間を、「特別」にして、人間の国の動作を覚える。
 さらに、「男の子」と「女の子」の区別をつけて、「女の子」と「男の子」それぞれにより、対応を変えなくてはならないらしい。なんで? 覚えることが、たくさんだ。

 「ふつうはそんな、なんでなんでって聞かないの。」
 「幼馴染の女の子」。私の「人間の先生」。

 私は、数が数えられない。私は、折り鶴が折れない。
 「幼馴染の女の子」は、私が、どうしても一工程目で紙の角と角とが合わずに進められない「一人10羽」の宿題の、折り鶴を、

 「**ちゃんは本当に、意味わかんないところが、異常なまでにできないよね。」
 と、言いながら、続きを折ってくれる人。

 ちょうちょ結びができない私に、
 「だからなぜそこを上にする。」
 と言いながら、練習に付き合ってくれる人。

 「同級生」が、泣いたり「最低。」と私に言ったりした時に、「幼馴染の女の子」は、その場にいなかったのに、理由がわかって、教えてくれる。

 「**ちゃんは、本当はおかしいんだからね。私はわかってるんだから。」
 と、いつも言う。

 私の「人間の先生」。人間の国での振る舞い方を教えてくれる。

 ところで私は、女の人、なんだろうか。
 そもそも、私(たち)は、人間かどうかも、わからない。
 そして、女の人のように見えるような気がする人も、男の人のように見えるような気がする人も、トイレや人のいない場所で、これの、どれ? 肉を触ったりしゃぶったりするけれど、そのあたりは、どう考えたらいいのだろう。
 という言葉は、なかった。

 私(たち)の「先生」は、いなくなる。「中学生」になるという。
 「これからは、ひとりでがんばるんだよ。」
 と、「幼馴染の女の子」は言う。
 「中学生」がどんなかたまりなのか、私(たち)には、わからない。

 人間は、お別れする時、例えば、ばいばい、と言う。

 おわり