いない 23 暗い

(※最後まで性暴力の描写しかないです)(つらそうな方はどうぞ無理せず)























 夜に祖父が、祖父の布団の中、私の上に、四つん這いになる。祖父の目は、私の顔を見下ろしていて、魚屋に積まれた死んだ魚の鱗が反射した時みたいに、銀色に光って見える。
 祖父が私に被さっているので、私にとっては、祖父の顔を、真上に見上げる形になった。祖父の顔にある皮膚のしわは、全て、私の方へ垂れていて、普段、直立している時の祖父とは、違う人の顔のようだった。
 祖父は、黙っている。私(たち)も、祖父を見上げている。祖父の上目蓋と下目蓋は、私の方へ少し浮いて、その奥に祖父の眼球が、いつもより覆われず、剥き出しの、球体に見える。少しの目やに。

 祖父は、こういう時、目がとてもうるさい。うるさいが、何を言っているのかは、わからない。こういう時の祖父の顔は、怒っているように見えるし、真顔のようにも、見える。わからない。息が降ってくる。もともと、私の、頭か目か脳みそのせいで、いつも部品がばらばらになる。私(たち)には、人の顔が、まとまらない。祖父の目は、奇妙に輝いている。
 祖父に乳首を齧られた時、私は、祖父に食べられるのだと感じた。肉を噛み切り、カマキリとか虎がやるように、私は肉なのだと、いう、言葉はなかった。食べられちゃうんだ。という言葉も、なかった。うまく言えない。
 「あっ死」
 無理に文字に移すなら、このような感じだろうか。この書き方でも、まだ分別のある感じがする。ここまで分別はなかった。私は死ぬのだと思った。言葉ではそう思わなかった。というよりも、言葉がなかった。私にとっては、とても突然、祖父が、乳首を大きく齧った。

 私の上には祖父が乗り、祖父は私の乳首を食べているので、(食べていたのではない、と気がついたのは、後からだった。乳首がもげていないことに、気がついたのも、後からだった。)祖父の顔は、下にずれて、もう見えない。
 祖父の部屋の、天井の明かりは、常夜灯か、消えていた。明かりの操作のスイッチには、起き上がらずに電気を消せるよう、長い紐を結び、垂らしてある。長い紐は、少し揺れている。まだ、私の目が慣れていないから、天井の模様は、見えない。龍の顔。このごろは、天井に、龍の顔が増えた気がする。天井の板の木目を、まぼろしの指で水を弾くように繋いでいると、龍みたいな顔に見える。暗くて、今日は、まだ見えない。
 私は、あんなに痛いのに、肉は千切れていないらしい。

 「死」
 という言葉もなかったが、私(たち)は、死ぬ流れを待っていた。目を瞑った。死ななかった。祖父は、りんごかくるみでも齧るように私(たち)の乳首を噛んでから、なんだか吸っているようだった。舌で乳首をほじっている。そういえば、さっき、祖父が、布団の中で私の胸肉を揉んでいた時、
 「この乳首がピンと出ねえんだよな。」
 と、誰にともなく言っていた。ならば祖父は、また、私の形を、「人間に近づけよう」としているのだろうか。私の体に、また、「おかしなところ」が、あって、祖父は、また、そのことに気がついて、「治してくれよう」としているのかもしれない。私は、頭と足方向に揺れていた。祖父が揺れているのかもしれない。私の腕は垂れている。どうしてこんなに布団の中に湿気が溜まっているんだろう。唾液が空気にさらされると、なんだか変な匂いがする。という言葉は、なかった。べちゃべちゃだ。べちゃべちゃしている。