運が悪い
仕事が忙しいので、外食に行くことにした。
……久しぶりに回転すし屋に入ってみるか。
店に入ると、やけに混んでいる。
お一人様用のカウンター席に座った。
タッチパネルでメニューを選ぼうとするが、品切ればかりだ。
なんだ、運が悪いな……。
あまり好きではないものばかり食べて、家に帰った。
今日も仕事が忙しい。
……晩飯はファミレスにするか。
店に入ると、やけに空いている。
大きなテーブル席を陣取った。
「すみません、オーブンが壊れてしまって焼き物系がお出しできません。」
なんだ、運が悪いな……。
あまり気が進まなかったが、誰も頼まないであろうラーメンを食べて家に帰った。
今日は仕事が残業になってしまった。
……たまには居酒屋に行くか。
店に入ると、ボチボチ混んでいる。
カウンター席に腰を下ろしたものの。
隣に座ったおっさんがクチャラーの極みで食欲が失せた。
なんだ、運が悪いな……。
あまりにも不愉快だったので、ビールと突き出しだけ食って家に帰った。
今日は仕事が休みだ。
……コンビニでも行くか。
店に入ると、やけにレジが並んでいる。
しばらく漫画でも見て時間を潰すか。
『運を悪くする悪習慣~こんな事をしていてはだめだ~』
…ふうん、ちょっと読んでみるか。
最近ついていない事もあり、何の気なしに雑誌を手に取り開いてみた。
―――見てみぬふりをしていませんか。
―――ズルことをしていませんか。
―――悪いことをしていませんか。
―――運が悪いと思う前に、自分のしてきたことを振り返ってみましょう。
なんだ、つまんねぇ説教本か。
俺はこの手の本は嫌いなんだ。
みみっちい事を抜かす前に、自分の気持ちを大切にしろってね。
俺は自分の人生を生きるために必死で、他人なんざ気にする暇はねぇんだよ。
―――情けは人のためならず、知っていますか?
ああ、知っているさ、人に情けをかけても意味がないってね。
しょせん他人は他人、気にしたところで自分が割りを食うだけだからな。
俺は自分の事だけしか考えちゃいないのさ。
道端でうろうろしてた爺さんの横を通り過ぎたな。
関わっていたら面倒なことになってたはずだ、仕方あるまい。
泣きながら歩いてるきたねえガキを見たな。
あんなにみっともなく裸足で外が歩けるんだって驚いたから写真に撮ってTwitterにあげたら炎上して面白かったんだよ。
カレー屋の順番待ちで名前呼ばれたから出てったのにクソ陰キャがしゃしゃり出てきてムカついたから怒鳴って追い払ったな。
お一人様一点限りとかふざけたことをぬかすクソ店員を叱って更生させてやったな。
財布を落としたばあさんがいたな。
ゴミをまき散らすなんてとんでもねえってんで貰ってやったんだ。
…そういやあ、財布の中身も空になるな。
どこぞのきたねえババアの財布なんざとっとと手離すに限るな。
たかだか6000円だもんな、はした金だよ。
百万ぐらい入れときゃいいのにさ。
変なおふだ入れとくぐらいなら万札入れとけよってね。
キモいんだよ、財布に金以外のもん入れとくヤツ。
……そうだな、もう小銭しか入ってないから、財布は捨てておくか。
俺は読んでいた雑誌を適当に棚に戻し、きたねえ財布から小銭を抜き取って、店内のゴミ箱に突っ込んだ。
レジを見ると、ずいぶん人がいなくなっている。
あれほど混んでいたのに、人っ子一人いない。
店員までいないじゃないか、どうなっているんだこの店は。
一言文句を言ってやろうと一歩踏み出した、その瞬間。
ズガシャッ!!!
俺の体が、吹っ飛んだ。
ビ―――――――ッ!!!
耳に響くのは、けたたましい…音。
バラっ…バラ、ボロッ、パラ、ぱらぱらっ……!!!
俺に降り注ぐのは、ガラス?歯磨き粉?おかしな鉄の塊?
とぼけたジジイが、車の中から、俺を見ている。
視界がどんどん、狭くなる。
クソ……外の冷たい風が……遠慮なしに俺を吹き付けやがる。
……寒くて、たまらない。
震えながら、文句の1つでも言ってやろうと口をあけたら、ごぼっと何かが噴き出した。
ああ……俺は運が、悪いなあ……。
……最後に見る、光景が。
こんなにも。
……こんなにも。
自ら運を悪くする方向にもっていくのだけはやめとこうね!!
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