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おなか猫、せなか猫

 この世には、二種類の猫がいる。
 おなか猫と、せなか猫だ。

 その見分け方は、容易である。

1, 猫を抱っこする
2, 猫と自分が同じ方向を向いていたら、その猫はせなか猫。
3, 猫が自分と見つめ合ったら、その猫はおなか猫。

1,四本足でそびえたつ猫の腹部に手を差し込み、自分の腹のあたりに抱え込む
2, 猫がそのまま背中を腹部につけた状態をキープ出来たら、その猫はせなか猫。
3,猫がくるりと体勢を変えて己の腹部をこちらの腹部に合わせたら、その猫はおなか猫。

 猫を抱っこすると、おなか猫とせなか猫を見分けることが可能なのだ。

 おなか猫は、抱っこをすると、おなかを人間にくっつける。
 せなか猫は、抱っこをすると、せなかを人間にくっつける。

 比較的、おなか猫の方が、強い主張をする。

 おなか猫は、抱っこをしようものなら、ぬるりぬるりと体をひねり、己のモフまみれの腹を人の体にこすりつけるのだ。
 まるで背中を人の腹につけてはならぬと誓いを立てているかのごとく、そのやわらかい体をねじるのである。

 わりと、せなか猫は諦めている空気を纏っている。

 ああ、私は今から飼い主に運ばれてしまうのだなという、ちょっとした憂いのオーラを感じる。
 ああ、私はこの場所にいたいと願うのに飼い主は移動を強いるのだなという、悲しみのオーラがあたりに漂う。

 ……我が家には猫が八匹いるが。

 おなか猫は、すかしたイケメン黒猫と、見た目人気ナンバーワン猫の二匹だけである。
 この二匹は、何があっても背中を人にくっつけることを良しとしない。邪魔な位置にいるのでどかそうと持ち上げれば、クルリクルリと向きを変え……飼い主に爪を立てて登ろうとさえ試みる、不届きものだ。

 基本せなか猫ではあるが、おなか猫を受け入れている猫もいる。
 しっかり者の姐さんと、気の強いキジトラ、しっぽの長すぎる重量級の黒い若猫の三匹だ。この三匹は、人間が好きすぎて……接触部分がせなかであろうとおなかであろうと大喜びで受け入れている節がある。

 完全せなか猫は、おなか抱っこをしようものなら仰け反って拒否をするタイプだ。
 猫は猫背であるという常識を覆し、えびぞって背中を人間に接触させる。
ビビりの黒猫、我関せずのキジトラ、真ん丸に肥えたキジトラの三匹である。

 おなか猫もせなか猫も、はっきりとした性格の違いのようなものは見受けられない。

 みんなそれなりに凶暴だし、それなりに穏やかだし、それなりにぼんやりしているし、それなりにフレンドリーなのだ。

 甘えっ子がおなか猫になるかといえばそういうわけでもないらしい。
 クールな猫がせなか猫になるかといえばそういうわけでもないらしい。
 やんちゃな猫がおなか猫になるかといえばそういうわけでもないらしい。
 大人しい猫がせなか猫になるかといえばそういうわけでもないらしい。

 人間が大好きだからおなか猫になる?

 人間嫌いの猫…はいないからなあ、イマイチはっきりしないんだよね。
 うちの猫はみんな人間が大好きっぽいからなあ……。

 今も、ソファでマッタリ寛ぐ私の周りには、モフモフがわんさかいらっしゃる。膝の上で丸まる猫あり、足もとでブンブンのどを鳴らしている猫あり、人の腹の上でぐるぐる言ってる猫あり、棚の上からこちらを伺う猫あり、キッチンでちょびちょび水をなめる猫あり……。

「なーん……。」
「にゃー!!!」
「……。」

 ムム、やけに猫が集まってきたぞ……ああ、もうご飯の時間か。

 私は腹の上の猫を下ろし、膝の猫を片手で抱えて立ち上がり…いてて!!しまった、この猫はおなか猫!

「にゃーん、グル、グル……」

 ふん、ふんふん!!
 見た目抜群猫が人に魅惑の腹毛をこすりつけて登頂してくる!
 耳元に猫の鼻息と、のどを震わせる重低音が!!!

「わかった、わかった!!!もー!!!」

 貼り付く猫を両手で剥がしながら、私は給仕の準備をするべく、キッチンへと向かったのであった。

※こちら動画もございます※


おなか猫の爪は切っておくべき(*'ω'*)


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