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この令和の時代に、Gメン'75を見た話

 ただ今の時刻は6:45を少し過ぎた頃。

 私と息子は、毎朝近所の公園にウォーキングに出かけ、ラジオ体操をして帰ってくることを日課としている。今朝も6時ちょうどに家を出て、公園を半周し、いつもの場所でラジオ体操の歌を歌い、ラジオ体操第一第二を踊ったばかりだ。

 今朝は少々雲が多くて風が強い。遠くの空にやけに重たそうな雲が見えるので、午後からの下り坂を予感しつつ、いつものコースを歩いて家に向かっていると。

「トイレ行ってくる」

 ラジオ体操をして腸が活発化したらしい息子が、一言断りを入れて私の真横から駆け出した。……なんだ、健康な人だな。

 この公園にはトイレが四つある。
 一つは公園に隣接するホテル一階にあるトイレ。
 一つは一番大きな第一駐車場横にあるトイレ。
 一つはログハウスになっている休憩所内にあるトイレ。
 一つはチビッ子遊園にあるトイレ。

 今いる場所は池のすぐ真横なので、ログハウスのトイレが一番近い。

「じゃあ、ベンチで座って待ってるね」
「うん!」

 ログハウス前にはベンチがたくさん並んでいるので、そこで朝日の反射する池を望みつつ、のんびり待つことにした。急ぐ息子の後ろ姿に声をかけ、私はのんびりとその後を追う。

 朝イチという事もあって、辺りに人はほとんどない。

 ログハウスは公園内の一番外側にあるウォーキングコースから少し外れた内側部分に位置していて、この時間帯はあまり人が見かけられない。おそらく、朝早い事もあり、ゆっくりと休憩をするような人があまりいないためだと思われる。ハウス前の広場から伸びるなだらかな通路の上には、散歩やジョギングをしている人が結構いるんだけどね。

 ログハウス前の石畳は、それなりに所々色が剥げていたり雑草が伸びていたりして、なかなかに…味がある。池の輝きも目にわりと優しくて、なんというか…非常に、自然の風景に、心が癒される。少し離れた位置にある芝生には鳩が何匹もいて、忙しなく地面をつついている。虫でもいるのかな、そんなことを考えつつ、目を向ける……。

 ……強い風に流されて、雲がびゅんびゅん流れていく。

 もこもことした雲に遮られていた太陽が顔をだし、地面を…照らす。
 波打つ池の水が日差しを浴びてぎらぎらと輝き始めた……。

 しまった、何の気なしに座ったベンチは、太陽の日差しと池の反射光を思いっきり浴びる場所だったらしい。眩しい光に目を細め、別のベンチに乗り換えようかなと前を向いた、そのとき。

 なんと、目前の石畳の上に!!!

 ばさ、ばささっ・・・・
 こっ、こっ、こっ・・・・
 くるっく、くるぅ~・・・・
 かっ、かっ、かっ・・・・

 鳩が!!!

 一列になって・・・・こちらに向かってくるがな!!!!

 ちょっと待て、なんでこいつらはこんなにも直線になって並んでいる?!
 なんなんだ、なんでこいつらは同じスピードでこちらに向かってくる?!
 明らかに変だ、なんでこいつらは朝日を背負い私ににじり寄ってくる?!

 そうか、さてはこの場所…、鳩の餌やりをしている人の定位置だな?!腹を空かせた野生動物どもが、貪欲に餌を求めて…集まってきたに違いない!

 なんと、私が座っているベンチをめがけて、鳩が横一列に並び、こちらにやってくるではありませんか!!!しかもご丁寧に、等間隔を開けて整列しつつ足並みを揃えて…近づいてくる!!!

 こちらを睨みつけながら迫り来る、横並びの鳩…なんだ、この威圧感は!!!

 この…この感じ、私は、私は……知っているぞ!!!

 遠い過去に見た、テレビ番組の面影が…いや、面影どころか、そのまんま目に浮かぶ!!

 男気溢れるナレーションを背負いながら、六人の名優が滑走路を並んで歩く……あのブラウン管の映像が!!!今!!!まさに!!!鳩の姿に、画面が重なってええええええええ!!!
 うぉおお!!真ん中の鳩が、トレンチコート着てるとしか思えないいいいイ!!!右の鳩が妖艶女子にしか、見えないいいいイいいいイ!!!

 ハードボイルド Gメン'75…熱い心を強い意志で包んだ野生の鳩たち。

 ビッグな鳩も!!!
 ガッツのある鳩も!!!
 ハッスルする鳩も!!!
 パッショナブルな鳩も!!!
 ハードな鳩も!!!
 コミカルな鳩も!!!
 クールな鳩も!!!

 俺達は田舎の鳩だ。
 狙う獲物はマルマルと肥えた一般人。
 性根の腐りきった妄想炸裂ババア。
 俺達は田舎の能天気なヤツを追い詰める。
 俺達のシャバを荒らす奴らをのさばる悪をつぶす。
 俺達は朝の掟の下に集う鳩なのだ。
 ―――Gメン'75

 迫り来る鳩を前に、私はまたしてもおかしな妄想を大暴走させることしかできずにですね?!

 鳩が一歩前に進むその0,1秒の間に、幼い日の土曜のタイムスケジュールが脳内を駆け巡る。

 ぼうや~よいこだ金だしな♪からの、はらたいらに三千点、志村後ろ後ろ経由の♪ちゃーらー!ちゃららちゃーらちゃーちゃっちゃらー♪

 地味にテレビが寝てる部屋の横にあってさ、九時に寝てたんだけど婆さんがずーーーーーっとテレビ見てたもんだから気になっちゃってついつい最後まで見ちゃってたんだよね。おかげでこう、やけに子供のくせに刑事者ドラマに詳しくなっちゃってさあ…黒木警視フル推しだったんだよ、でもまわりはほえる方にみんな夢中でさ、西部に憧れちゃってさ、スコッチが良いだの殿下が最高だの言っててさ、タツだのハトだの若手のイケメンばっか人気が出ちゃってさ!思えばあの頃から私はおっさんや髭面が好きで、今でいう推し活をしてはドン引きされて、ロッキーの殉職時にはスケッチブックに見事なデッサンを描き先生にまでお前は何をやっているんだと呆れられ……。

 こっ、こっ、こっ・・・・
 くるっく、くるぅ~・・・・
 かっ、かっ、かっ・・・・
 ばさ、ばささっ・・・・

 ばっ!!!
 ばばさー!!!!

「おまたせ…鳩、すごいね」

 非常に珍しい光景なので写真にでも撮っておこうかとスマホに手を伸ばしたところで、ログハウスの中から息子が出てきて・・・ああ、ハードボイルドな面々が散ってったー!!!

 なんという逃げ足の速さ、ワイルドで泥臭い追跡を得意とする刑事の物語に相応しくないというか、なんというか!!!

「は、ははは、それじゃあ…かえりますかね」
「フライドチキン買っていい?」

 朝もはよから食べた、揚げたてのコンビニのホットスナックは、それはそれはおいしかったという、お話です……。


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