旦那が優秀過ぎて涙が止まらない
旦那の頭が良すぎる。
1000円一枚持ってコンビニに行った時、適当にいろいろ手にしていたらストップがかかった。
「あ、それ買うと2円足りなくなるよ」
旦那は商品の値段を暗算しているのだ。
ゾロ目が好きな私のために、いきなりうまい棒を買い足して1111円にするという大技も持っている。
…旦那の頭が良すぎるのだ。
日曜の込み合うモールで人ごみに流されている時、動きを止めてぼそりと呟いた。
「あ、あの人カツラかぶってないけど伊賀さんだ」
旦那は一度顔を見た人を、バッチリ覚えているし忘れない。
ほんの0.5秒見ただけで、化粧をしようが帽子をかぶろうが見抜いてしまうという技も持っている。
……旦那の頭が良すぎるのである。
久しぶりに東京に行った時、懐かしそうにあたりを見回してひときわ大きな声をあげた。
「あ、ここマズかった原宿ドッグ売ってたとこだよ」
旦那は昔通った道を、何があったかを、全て思い出せるのである。
派手に転んで恥をかいたことを昨日のことのように話し、芋づる式に人のやらかしをずるずると思い出してオオウケするという技も持っている。
……信じられないくらい優秀な、旦那。
しかし、神は旦那をただの優秀な人では、終わらせない。
旦那の頭は、良すぎるが。
コストコでぶどうを買ってきてねと言った時、ニコニコして持ち帰ってきたのは。
「あ、言われたとおり、茎の黒いの買ってきたよ」
……旦那は、私が言ったことを覚えているけれども。
―――このぶどうはね、茎が緑色のものが新鮮なの、黒いのは枯れてきてるからね、買っちゃダメだよ!
興味が薄いからなのか、一部一部しか覚えていない。
そしてキッチリ誤った判断をし、誰も買わない痛みかけのブドウを買ってくるのだ。
旦那の頭が良すぎるのだが。
帰りが遅くなるから洗い物をお願いねと言ったら、得意げな顔でキッチンに立っていて。
「あ、言われたとおり、スカスカに並べて洗っといたよ」
……旦那は、私が言ったことを忘れていないが適当に覚えている。
―――食洗機にはね、普通のお皿とスプーンや箸を入れてね、安いプラ容器や木製のお椀なんかは入れちゃダメだよ!隙間を作って並べてね!
食器一つ一つに愛着がないからなのか、雑な仕事をする。
そしてばっちり、間違った判断で100円ショップのボウルをゆがませ、スキレットに錆を浮かせ、漆塗りのお椀にダメージを負わせるのだ。
旦那の頭が良すぎるせいで。
町内会の集まりに出かけた時、両手に大荷物を抱えて大喜びで帰ってきた。
「あ、言われたとおり、丁寧にお礼言ってもらってきたよ」
……旦那は、私が言ったことを適当に改竄して蓄えてしまうのだ。
―――あのね、食べ物はもらっても食べ切れないからもらっちゃダメだよ!丁寧にお礼を言ってちゃんと断ってね!
欲しい気持ちが抑えきれないからなのか、都合のいい部分をつなげてしまうのだ。
そしてがっつり、人様のいらないものをすべて押し付けられて持ち帰ってくる。
旦那が優秀なのは理解している。
しかし、それを打ち消す残念な部分が……相当、ある。
アボカドは黒くて腐っているものばかり買ってくるし、花は萎れたものを選んで来るし、端っこの折れ曲がった雑誌を買ってくるし、不便な時間帯を選んでレストランの予約を入れるし、洗濯の時は洗剤の分量を間違え、乾燥機に入れるのを忘れて翌朝まで放置し、掃除をすればフィルターなしで動かして大惨事になり、スーツは要る日に間に合わないようにクリーニングに出して、一足しかないフォーマルシューズを履いている日に限って泥んこに突っ込んで、新しいスラックスを下ろした日に転んでひざに穴があき、ガソリン代が高いから次の日に入れようと思っていたら急に遠出しなければならなくなってどこにもスタンドが見つからずガス欠を起こしてJAFを呼ぶ羽目になるのだ。
……この世は実にうまいこと、バランスよく出来ている。
持って生まれた有能さを際立たせない、余りある無能さ。
……そうだね、完璧すぎる人なんて、恐れ多いもんね。
「あ、また焦がしちゃったの?いいよ、僕洗ってあげる。奈々ちゃんは何回言っても焦げの落とし方間違えるからね」
「う、うう…ケンちゃん、ありがと……!!」
私は、優しいやさしい旦那様に……ホットケーキだった物体がこびりついたフライパンを手渡したのだった。
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