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はったり

 はったりかまして、はや十年。

 俺はこの口先一つで生きてきた。

 小さなことを大きく。
 些細なことを大げさに。
 つまらないことを仰々しく。
 バカバカしいことを声高高に。

 小さい奴らが、俺を讃えた。
 臆病者どもが、俺に怯えた。
 性根の腐った軟弱者らが、俺を持ち上げた。
 知能の低い未熟者達が、俺に媚びた。


 はったりかまして……はや百年。

 俺はこの口先一つで、生きてきたのだ。

 小さなことを大きく取り上げ。
 些細なことを大げさに伝え。
 つまらないことを仰々しく語り。
 バカバカしいことを声高々に吠え。

 小さい奴らの、俺を讃える声がうるさい。
 臆病者どもの、俺に怯える声がうるさい。
 性根の腐った軟弱者らの、俺を持ち上げる声がうるさい。
 知能の低い未熟者達の、俺に媚びる声がうるさい。


 はったりかまして……もうなん年だ?

 俺はこの口先一つで、生きて、きた。

 小さなことを大きく取り上げたのは、何時のことだろう。
 些細なことを大げさに伝えたのは、何時のことだろう。
 つまらないことを仰々しく語ったのは、何時のことだろう。
 バカバカしいことを声高高に吠えたのは、何時のことだろう。

 小さい奴らの、俺を讃える声は聞こえる。
 臆病者どもの、俺に怯える声が聞こえない。
 性根の腐った軟弱者らの、俺を持ち上げる声が聞こえる。
 知能の低い未熟者達の、俺に媚びる声は聞こえない。

「このくちばしは、実に素晴らしい」
「空の覇者も、老いてしまえばただの素材ですなあ」 
「これさえ飲めば、万年の天賦の知恵が身につくのだぞ!」
「羽ももう毟れないな、爪も再生しないし…もう食う場所も無い」
「骨になれば使える」

 はったりをかましたくちばしは、とうの昔に奪われた。
 身を覆う羽も、飛び立つ翼も、肉を潰す爪も牙も、すべて奪われた。

 ……そして今、命さえも。

「ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ!おまひら、わひのぱわーを、みふびっとるな…ひょひか、ひまから、にんげんろもに…やみの、のろひ……」

「なんかもごもご言ってら!!」
「うるせーなあ、まずは首から落とすか…」
「あ、血液採取準備するんでちょっと待ってくださーい!」
「先にしっぽカットしとくわ!!」
「おい!!抜け駆けはよせ!!」

 俺が、最後にかました…はったりは。

 小賢しい、生き物の騒音に……、紛れて、消えた。

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