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闇魔法

 ……ああ、やってしまった。

 悔やんでも、悔やみきれない。

 僕は……取り返しの、つかないことを、してしまった。

 なぜ僕は、こんなミスを。
 なぜ僕は、こんな過ちを。
 なぜ僕は、こんな失敗を。
 なぜ僕は、こんな醜態を。

 もはや、全てを……なかったことにするしか、ない。

 楽しい時間。
 美しい景色。
 流した涙。
 熱い吐息。
 燃える心。
 愉快な仲間。
 頼れる同志。
 優しい彼女。

 ……胸に残る記憶をすべて放棄し、無の世界へと旅立とう。

 僕は、すべてを闇に包む、究極魔法を唱える事を決めた。

 ……さようなら、平穏な毎日。
 ……さようなら、昨日までの僕。
 ……さようなら、愛おしいこの世界。

「……おやすみ」

 瞬時に、世界は、闇に、包まれ。
 僕は一人……この、辺鄙な場所で。


 ……ぅう~、う~……。


 真っ暗闇の世界に、うっすらと……真っ赤な血の、気配が。


 ぅう~!!!う~!!!


 バン!!!……バンッ!!

 ざ、ザ、ザっ!!!


「あー!!ちょっと、君?大丈夫ですか!!!エヘン!!!」

 ……目はしっかり閉じているはずなのに。

 瞼の裏にちらつく、赤い、光……。

「確認できました…はい、通報のあった通り全裸です。…衣服は近くにはない…ですね。ああ、ありますよ、おかしなマネキン。はあ、服ですか、ええ…トランクスははいてますね。……はあ、なるほど、じゃあこれが唯一の証拠品…」
「起きる事はできますか?意識はありますか?すみません、今こんなのしかなくて、私のハンカチですけど、のせておきますね?」
「えー、意識混濁、救急車お願いします」


 ……なにやら、闇に包まれた世界が、やけに、騒々しいが。


 ぃーポー…ぴ……ぅう~!!!!

 ぴーぽーぴーぽー!!

 バン!!!……バンッ!!

 がったん、ガシャッ、かっ!!!


「わかりますかー!!ちょっと触りますよー!!えーバイタル…」

「近くのコンビニにかばんが投げ捨ててあったそうです、中に社員章が・・・ああ、写真の人ですね、小俣誉(おまたほまれ)ゴールデンバル株式会社第一室長、生年月日昭和51年12月5日…血液型はO…」

「会社には連絡済です!!折り返し社長さんから電話が・・・あ、きました!もしもし?夜分遅くにすみません、実はそちらの従業員さんと見られる方が路上で発見されまして…」

「あ、ご本人さんのスマホも鳴ってますね、出ましょう!!…あ、もしもし?私は諸田警察の…ええ、ご主人ね、今ちょっと意識不明でね、……いえいえ、事故じゃないの、泥酔して全裸でバス停のベンチで…ええ、通報がありましてね、真っ裸なんですわ!!うん、一枚もはいてない、すっぽんぽん!!!」

「ごめんねー、担架のせるからねー!!」

「あ、そのハンカチ私のですけどもういらないので持ってってください」

「じゃあ市民病院に行きマース!!!」


 ……僕の闇魔法は、まだしっかりと効果をもたらしている。


 ……目を閉じていれば、大丈夫。


 見たくない世界は……、見なければ良いのだ。


 僕は、かたく、かたく……目を、閉じた。


こちら動画もございます(*'ω'*)


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