ごんごんごん!
ごんごんごん!ごんごんごん!!
自分の部屋で、パソコンに向かって作業をしていたら…なにやら音が聞こえる。
音の発生源は…クローゼットか。
ちらりと目をやり、パソコンへと視線を戻す。
ごんごんごん!ごんごんごん!!
やや耳障りな、大きすぎない、騒音。
猫が廊下の向こうで暴れている?いや…猫は膝の上でぐうすか寝ている。
もふもふの腹毛をそよそよしたあと、パソコンへと視線を戻す。
ごんごんごん!ごんごんごん!!
もしかして、母親が嫌がらせをしているのかも?
昨日部屋に篭りきりで辛気臭いと乗り込んできたばかりだ、隣の部屋から壁を叩いている可能性が…いや、今日はお気に入りのテレビ番組がある日だから違うな。
机の横の時計にちらりと目をやり、パソコンへと視線を戻す。
ごんごんごん!ごんごんごん!!
もしかして…悪霊がいるとか?
そういえばなんだか、肩がやけに凝っている、へんなのに取り憑かれて…いやいや、そんなもの、いるはずない。
天井をちらりと見やったあと、パソコンへと視線を戻して、キーボードを叩く。
ごんごんご……
……ン、んぐっ!!
ぎ、ぎやああああ……!!!
うん……?なんか、不穏な音が聞こえたような。
「やあやあ、どうも、どうもどうも。本日は実にお日柄もよく、ぐふふ!」
文字打ちに集中する私の耳に、聞きなれた声が聞こえた。
振り向くと、見慣れたすかした姿のおっさんが。
……なんだ、黒い人か。
と、いうことは。
「えらくまた久しぶりにやってきたね、何、格別変なもんでもついてた?」
「ええ、今朝方公園で引っ掛けてきたやつですけど、なにやら企んでいたので、泳がせてから…ほら、見て!ちょっといい怨念でしょう!いつもなら即刻いただいちゃうんですけどね、いやあ、我慢してよかった!」
黒い人がつまみあげたのは、活きのよさそうなもこもこの怨念。
悪霊になる前のへっぽこ意識体とでもいうべきかね。
「相変わらず目ざといねえ…いつもだったら憑いた端からパクパクいっちゃうのに、何でまた、珍しい。」
たぶん恨みたてほやほやの貧弱な怨念だったんだろうね、薄暗い朝の公園で見かけたぼんやりしたババアにくっついて、さんざん怖がらせて愉悦に浸ろうと思ったんだろうけど……。
「奥さんに悪事を働こうとするような不届きな輩なんてなかなかいないですからね、いやあ、ちょっとしたレアモノでしたよ、わはは!!」
私はわりと悪霊ホイホイなので、黒い人にチェックされていてですね。私に取り憑こうもんなら、憑いた端から黒い人にさくさく刈られたり捕獲されたりぱくーされたりしちゃうんだよ。
なので…私にはおかしなものは憑かないというか、憑けないというか、何も憑いていないのが基本なのだな。
しかし、そんな事情を知らない悪霊は巷にあふれており、事情を知ることのできない悪霊が大半であり…って、なんかこう、嫌なスパイラルがですね、延々とですね!!
おかしいなあ、いつものウォーキングコースを歩いただけなのに、どこで拾ったんだろう。まあ、考えなしに取り憑いちゃうような存在だし、流れの悪霊なりそこないだったに違いあるまい。
「あっという間に捕食とか、その人ももっと怨念ばら撒きたかっただろうに。」
「ええ、後悔の念がいっぱい詰まっててうまそうですよ、これは高く売れるに違いありません、ありがたいことです、ええ。また来ますよ、それでは、失礼。」
黒い人は、表情の見えない顔でにっこり微笑んで、ふわりと消えてしまった。
私は、ふうと一息ついて、再びパソコンに向かい、作業を……。
ごんごんごん!
……今度はなんなんだ。
ごんごんごん!!
――ちょっとー!おやつ、まだー!!!
クローゼットの向こう側の部屋で、母親が壁を叩いている。
……なんだ、もうおやつの時間か。
私は作業の手を止め、お茶を入れる準備をするため、部屋を出たのであった。
悪霊、たいさーん!!!
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