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お金が集まってくるお財布

……真夏の照り付ける太陽の下、大々的に開かれるイベントがあった。

趣味の漫画や小説、手作り作品、様々なグッズ…、コアなファンを魅了する、とある会場。朝始発電車に乗り込んで駆け付けた私が向かうのは、とある作家さんの販売ブース。

長年通販だけ利用して目当てのモノを手に入れていたのだが、なんというか、一度くらいは、本場で買ってみたくなったというか、大好きな作家さんに差し入れというものをしてみたくなったというか、直接いつも素敵な作品をありがとうと伝えたくなったというか、仲良くしてくださってありがとうとどうしても言いたかったというか。
ちょうど休みがイベントと重なったこともあり、意を決して会場に乗り込んでいくことにしたのだ。

住んでいる場所が遠いので一度も直接お話をしたりすることはなかったのだが、長年にわたり同人誌やグッズなどを通販で購入しており、毎回丁寧なお手紙を下さって…。定額小為替が透けるので手元にあった愛猫の写真を同封したところ、同じ模様の猫ちゃんを飼っていらっしゃることが判明し、恐れ多くも文通のようなやり取りをさせて頂いていた。

丁寧に作られた作品を購入させていただくだけでなく、愛猫ラブ仲間としても、ずいぶん仲良くさせて頂いている作家さんだった。

「あの、私ゆるちゃんです、いつもお世話になってます……!」
「ああー!!!いつもありがとう、猫ちゃん元気になりましたか!!」

奇抜なコスチュームに身を包む皆さんをかき分けて、作家さんのブースに向かうと…お手紙の穏やかで優しい文字のイメージをそのままお姉さんにしたような、女性がいらっしゃった。
うちの子のお気に入りの猫枕とおもちゃ、冷たいペットボトルと、私の地元名産のえびせんを差し入れし、ひと時の邂逅を楽しませていただいた。

「これからも仲良くしてくださいね!」
「もちろんです!あの、新刊全部購入させてください、この日のために貯めてたんですよ!」

「ウフフ、よかった、私もう見て頂けないのかと思ってちょっぴり落ち込んでたんです!」
「まさか!!私20年経っても先生のファンなんで、お願いしますね?!」

お会計をしようとお財布を取り出した時、思わず…固まった。

「「ああっ!!その財布は!!!」」

声が思いがけず重なり、隣のブースの人が…驚いている。
……作家さんと二人で目を合わせて、くすくすと笑い合う。

「お金が集まってくるお財布ですよね?」
「そうそう、通販で19800円の!」

紺色の、竜の模様の書かれた財布。
金運を引き寄せ、みるみる財布の中がパンパンに膨らんでいくといううたい文句で、限定販売されていた代物である。

こんな下世話なものを、まさか敬愛する作家さんがお持ちとは。

「あのー、どうです、財布の効果は?」
「なんか、入っていくけど、出てっちゃうんですよ、これ!!」

「そうそうそうそう!!!入ってくるけど、どんどん出てっちゃいますよねえ?!」
「だってどこにもお金が貯まっていくとは書いてなかったから!」

どこか天の上の存在に近いと思っていた作家さんに対して、一気に親近感がわいた。
そこから通販好きという話や、おまじないに目がないこと、お弁当作りが趣味という話、ついつい目についたモノを買ってしまう癖など…やけに自分と似たタイプの人であることが判明し、ちょうど人の来ない時間帯だったこともあって、30分ばかりお話をさせていただいたのを覚えている。

……今でも思い出す、あの時の驚きと、楽しかった瞬間。

お揃いの財布がぼろぼろになってしまった頃、作家さんは、海外へと旅立つことになった。たくさんの魅力的な作品を私に与えてくれた作家さんは、遠く離れた国に嫁いでいったのだ。

日本を発つ前に、丁寧なお手紙と心のこもった色紙をいただいた。

今、作家さんは遠く離れた国で、ごく普通のコインケースを愛用しながら、ご主人、お子さん、お孫さん、猫ちゃんたちと一緒に、のんびりと暮らしていらっしゃる。

―――こっちはそういうお財布売ってないんですよ!通販もね、日本国内発送しかできないんですって!

時折いただくメールには、可愛らしいイラストが添えられていて……、20年前を思い出す。

―――わたし、絵を描くのは、貴方にメールを出すときだけになってしまったわ?
―――ふふ、ありがとうございます!光栄です、私20年後も、先生のファンですよ?
―――あら!じゃあ、頑張って描きますね、ふふ……!

たまにお孫さんの描いたかわいいイラストや、猫ちゃんたちの写真も送られてくるのが…とても楽しみになっている。

作家さんも、私の送る、猫や日本の風景、日本食などの写真を楽しみにしてくださっている。……返信のメールに、何の画像を添付しようかな?

そうだ、あの時買った、うちわの画像を送ろうかな?
あの日買ったうちわは、我が家でいまだ現役だったりするんだよね。
すし飯をあおぐときは、作家さんのうちわでないと酢飯が締まらないっていうか!

―――先生のうちわで作ると、美味しさ倍増なんです!ごちそうさまでした!

私は、うちわと、うちわであおがれて完成したちらしずしの写真をメールに添付して、返信をしたのであった。


どこで縁がつながってるかわかんないもんですねえ~♡


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