029-渚通りのディスコティック

029 星ますみ「渚通りのディスコハウス」(1976)大西結花「渚通りのディスコティック」(1988)

作詞:藤公之介 作曲:平尾昌晃

星ますみ(1976年)編曲:馬飼野康二
大西結花(1988年)編曲:矢野立美

せっかくなので、カヴァーもの続けてみましょうか。

いま、レコードファンの間でちょっとだけ話題の大西結花。この人ほど環境に振り回され、紆余曲折を経ながらも今も活動を続けるアイドルは稀でしょう。
これまでにリリースしてきた曲も、まさにアイドルの王道。つまり、時流に乗ってその時々の旬を取り入れ、そこそこのヒットになる。そんな中でも最も出来のいい曲がカヴァーだったというのもこの人らしいのではないでしょうか。

「渚通りのディスコティック」は、もともとは星ますみが歌い、「渚通りのディスコハウス」というタイトルで76年にリリースされたショウビズ系ディスコ歌謡。作曲が平尾昌晃ですから、そこに洗練を求めるのは難しいかと思いきや、なかなかに凝ったメロディと構成は今でも瑞々しく響きます。

問題はアレンジで、原曲の馬飼野康二によるアレンジは、この時代らしい大仰なストリングスやブレイクの入れ方など、どうみても野暮ったく聞こえます。それ以上に野暮ったいのが星ますみのヴォーカルで、妙に上ずった女優系の歌唱はリズム感ゼロ。ビブラートは何が怨念でもこもっているのかと思うほど奇妙な揺れ方をします。この仕上がりは本当にもったいない。

対して大西結花ヴァージョン。まず、ジャケットが素晴らしい。ジャケットのクオリティで中身が計れる好例でしょう。タイトルを「ディスコティック」に変えているのも好印象です。88年という時代に「ディスコハウス」はないですもんね。

アレンジはこの時代らしい打ち込みによるダンサーで、ちょっとブギー感覚があるところが今の時代にぴったりです。特に素晴らしいのがトリッキーなシンセベースのフレーズで、これがディスコの次の時代のダンスの音になっているのです。このアップデート感。

原曲では野暮ったいストリングスに先導されていたヴァース部分は波打際を連想させるシンセのフレーズに、波の音のような効果音を被せ、ムードを煽ります。
ヴァースから平歌へと移るところのチェンジ・オブ・ペースでは、リットするヴァースからインテンポになるタイミングが絶妙で、歌詞の世界における時間軸の変化を見事に演出しています。
海辺の風景が浮かぶような視覚的なアレンジは、楽曲の性質をしっかり理解した上での、とても丁寧な仕事で好感がもてます。

カヴァー曲というのは、どうしても原曲の新鮮さに勝てないところがあるのですが、この曲はカヴァーの方が圧倒的に優った珍しい例と言えそうです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?