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42枚目 シーナ追悼:SHEENA & THE ROKKETS「#9」(1987年)/この4人でしか出せないロックンロールのグルーヴが聴ける最後の作品

#jrock #80s #シーナ &ロケッツ #鮎川誠 #シーナ

シーナの訃報を最初に知ったのは、内田裕也さんのツイッターでした。あまりにも唐突で信じられなかった。20数年前、どっかの学祭でシナロケを見たとき、ステージ上から伸ばしたシーナの手とタッチして、鮎川の飛び散る汗を浴びた。そのときの強烈な存在感が頭をよぎって、喪失感が押し寄せてきました。長い間に亘って、ロックンロール・クイーンの名を欲しいままにしてきたシーナ。結局そのポジションに到達した人はほかにいなかったのかもしれません。シーナを乗せたロケットはどこまで飛んでいったんでしょうか。また会う日まで。

シナロケを1枚というのはなかなか悩むところです。分かりやすく彼らの魅力を詰め込んだライヴ盤という手もあったのですが、こういうタイミングなので、僕が初めて聴いた彼らのスタジオアルバムである「#9」を採り上げて、シーナの追悼としましょう。

シナロケはデビューからコンスタントに活動を続けてきましたが(あ、シーナの産休というのがありましたね)、レコード製作においては、いくつかの時期に分けられます。メジャーデビュー前(「#1」)、アルファレコードに所属し、YMO人脈のバックアップを受けたメジャーデビュー期(「真空パック」「チャンネル・グー」)。飾り気のないロックンロールに戻りつつ音楽性を広げていった時期(「Pin-up Baby Blues」「New Hippies」)。ポップ感覚を強めながらも迷走していた時期(「Main Songs」「Gathered」)。その迷走を断ち切ったのが、自らの音楽と立ち位置を再確認したライヴ盤「Captain Guitar And Baby Rock」でした。以降、迷うことなくシンプルなロックンロールサウンドを追求していくことになります。

そういった意味で、「#9」は原点回帰といっていいでしょう。デビューアルバムの「#1」に倣ったタイトルと、メジャーデビューアルバム「真空パック」の1曲目に収録されていた「Bat Man」のリメイクをオープニングに持ってきたことにもそれは伺い知れます。その他の楽曲もひたすらコンパクトに、キャッチー過ぎないフックを上手く取り入れつつ、一切のギミックなしに演奏のダイナミズムだけで持っていくあたり、なかなか真似できるものではありません。特に素晴らしいのがA面ラストの「壊れちゃう」で、ただの3コードのロックンロールなのに、普通に演奏しても絶対にこんな風にはならないってのがよく分かる爆裂ぶり。シーナのヴォーカルはいとも簡単にメロディから逸脱していき、ロックンロールのグルーヴを作り出してしまう。逆に、シングル曲となった「どうしても逢いたい」のようなカッチリとしたメロディと構成を持った曲では、イマイチその魅力を発揮できていなかったようにも感じます。普通の日本人シンガーはメロディに捕らわれてしまう人が多いですが、シーナは逆ですね。

また、川島一秀のドラムスも重要で、レギュラーグリップで高い位置から振り下ろす豪快なドラミングは、一見普通に見えますが替えがきかないものです。鮎川のギターがフィーリング一発のアドリブ性が高いものだけに、小手先のテクで対応するよりも、ドバーン!というスネアの鳴り一発の存在感を示したほうが、演奏を見失わなくていいのです。つまり、これはライヴの流儀です。そして、浅田孟のベースはシンプルにビートを刻みながらも、ヘヴィになりすぎることなく軽やかさを残します。浅田はこのアルバムを以て脱退してしまうのですが、次作「Happy House」でバンド結成時のオリジナルベーシスト、奈良敏博が再加入すると、バンドのグルーヴはゴリゴリしたハードコアなものに変わっていきます。つまり、シナロケのポップな側面を支えていたのは浅田のベースだったのです。それがよく分かるのがB面ラストの「Yes, Rock, Yes」で、これまたシンプルな曲ですが、ハードなのに妙にふわふわとした感覚があることに気づくでしょうか。これこそがシナロケのグルーヴの大きな個性であり、浅田の持ち味だったといえます。これ以降、リズム隊のメンバーチェンジが何度かあり、作品としては悪くなくても何かが足りないと思うことがありました。それこそがこの4人が揃ったときにだけ生まれるロックンロールのグルーヴなのでした。

ちなみに、やたらとカッコいいジャケットの写真は鋤田正義によるもの。これはぜびアナログ盤で聴きたい作品です。まぁ、シナロケの作品はどれもアナログの方が似合うものばかりなのですが。

【収録曲】
A1. BATMAN 88
A2. DANCE DANCE DANCE
A3. I'M READY
A4. NO NO キャッチフレーズ
A5. I DO LOVE ME
A6. 壊れちゃう
B1. LET′S MAKE A MEMORY
B2. どうしても逢いたい
B3. SUGAR FINGER
B4. BIG BEAT
B5. YES, ROCK, YES


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