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41枚目 マイケル・ツィマリングがミックスしたアルバムその5/BLANKEY JET CITY「BANG!」(1992年)

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マイケル・ツィマリングの仕事の5回目。いちおう、今回で打ち止めです。前回まではツィマリングが佐久間正英と組んだ作品でしたが、もう一人、ツィマリングを重用した人物がいます。それが土屋昌巳です。実は、土屋も79年に一風堂の2ndアルバムをハンザ・スタジオでレコーディングしており(加藤和彦よりも早く、日本人で最初かもしれません)、この時の担当はツィマリングではありませんでしたが、スタジオで顔を合わせていた可能性は十分あります。

余談ですが、佐久間と土屋は2001年にThe d.e.p.というバンドをやっていたことがあるのですが(ほかのメンバーは、屋敷豪太、元JAPANのミック・カーン、ヴィヴィアン・スー。ヴィヴィアンのプロデュースを依頼された佐久間がこれらのメンバーに声をかけ、そのままバンド化した)、似ているようで正反対の感性を持つ2人が一緒にやること自体が事件でした。アーティストの良さを引き出すことに長けた佐久間に対し、土屋の先鋭的で攻撃的な感性は、裏方にいてもどこかに自分のサインを埋め込んでおくようなところがあります。そんな土屋にとって、ブランキーは格好の素材に映ったことでしょう。

ブランキー・ジェット・シティは名古屋時代からの知り合いだった浅井と照井、中村の3人が、紆余曲折を経て東京で合流。バンド結成から1年ほどで、中村がイカ天に出場に応募し、圧倒的な評価を得てグランドイカ天キングを獲得。メジャーデビューにこぎつけました。ところが、そのデビューアルバムが良くない。ロンドン・レコーディングはいいのですが、クラッシュやダムド作品のエンジニアを担当してきたジェレミー・グリーンのプロデュースは、バンドの音楽性を理解していたとは言い難かったのです。特に薄っぺらく軽いサウンドは、特異な物語性を持った歌詞の世界とマッチせず、浅井のヴォーカルのエキセントリックさだけを浮き上がらせていました。もちろん、バンドがレコーディングに慣れていなかったこともあるでしょう。しかし、ジェレミーは、ブランキーをちょっと変わったネオロカバンドくらいにしか思ってなかったのではないでしょうか。そんなジェレミーのプロデュースにはバンドも不満を持っていたようです。

その反動でしょうか。2ndアルバムの「BANG!」は、その後に出たどの作品にも負けないほど濃厚な世界観を持った作品に仕上がりました。そのきっかけとなったのが、プロデュースを担当した土屋昌巳でした。よく知られているように、ブランキーの歌詞は、<ブランキー・ジェット・シティ>という架空の街で起きたことを歌ったものです。土屋は、平坦な言葉の世界だったその街に色を塗り、細かなディテールを作り、立体的に立ち上がった街のカメラアングルを決めました。このアルバムの収録曲の多くは、アマチュア時代から演奏していたものですが、録音前に大幅にリアレンジし、この工程はずいぶん苦労したようです。おそらく、土屋はプリプロの時点から大きく関わり、アレンジにもかなり口を出していると思われます。

緩急自在に押し引きしながら多様な展開を見せるリズムパターン。ギターはソロやオブリガードにおけるスケールの使い方とバッキングでの半音をぶつけていく和音の使い方の上手さが光ります。浅井はギターのフレーズは全部自分で考えたと言っているようですが、土屋のアイデアがベースにあることは間違いないでしょう。例えば、「ヘッドライトのわくの取れ方がいかしてる車」のギターソロなどはまだきちんと弾ききれていません。自分のテクニックの限界を超えたフレーズであったのだろうと思いますが、自分が弾けないものが何もないところからいきなり出てくることは考えにくいのです。また、コードやフレーズの"きわ"など、甘さが見えるところもまだまだ多く見られます。

ジェレミーが初期パンクにありがちな勢い任せでノーギミックのストレートな音を録ろうとしたのに対し、土屋は様々な手法で装飾を施し、メンバーが出したい音と実際のテクニックの狭間を埋め、彼らがもつ世界観にサウンドを追いつかせました。その世界作りを助けたのがツィマリングです。レベルを突っ込んでわざとすこし歪ませたサウンドの生々しさ。アンプからの振動をそのまま刻み込んだような<クリア>な音は、その分ミストーンを含む細かな演奏のニュアンスまでもが丸見えにしていますが、逆にそれが緊迫感として伝わってくるのです。そして、それらを包み込む絶妙なリバーブ。このサウンドの妙は、後の作品においても再現できなかった、奇跡的な音響に聞こえます。

しかし、サウンドがリアルになったのと反比例するように、現実としてのリアリティは減少していきます。言い換えれば、人の気持ちよりも風景の印象が強いということ。つまり、サウンドトラック感が強いのです。作品しての完成度は凄まじいクオリティに達しているものの、オーバー・プロデュースであることも確か。ブランキーの世界はようやく形になりましたが、浅井の気持ちはどうだったのでしょう。


【収録曲】
1. RAIN DOG

2. 冬のセーター
3. SOON CRAZY
4. ヘッドライトのわくのとれかたがいかしてる車
5. 絶望という名の地下鉄
6. とけちまいたいのさ
7. ★★★★★★★
8. クリスマスと黒いブーツ
9. BANG!
10. ディズニーランドへ
11. 二人の旅
12. 小麦色の斜面





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