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54枚目 COMPLEX「COMPLEX」(1989年)/ティーニー・ボッパーとしてのCOMPLEX

#jrock #80s #complex #コンプレックス #布袋寅泰 #吉川晃司 #BOOWY

久々に書きます。

COMPLEXを聴いていて、ふと思ったことがあるので書いてみます。それは、COMPLEXの音楽は、ティーンに向けたロックンロール・ミュージック、つまり、日本のロックにおける最後のティーニー・ボッパーなのではないかということです。

ロックンロール・ミュージックは、その誕生から長い間、ティーンエイジャーたちのものでした。彼らにとってロックンロールは人生の教科書であり、優等生でいたくない少年少女たちの生き甲斐でした。しかし、音楽性の多様化と成熟の過程の中で、ティーンエイジャーたちの心はロックンロールの根幹ともいえるスピリットから離れていきます。現代の日本に当てはめてみるならば、10代の音楽ファンが聴いているのは、アイドルや当たり障りのないJ-POP。ロックにおいても、歌われているのは妄想的なロマンティシズムに塗れたラヴソングだったり、箱庭的感性の中に収束する人生論だったりと、そこにはかつてのような音楽の力を感じ取ることがあまり出来なくなっているような気がするのです。

BOOWYを解散した布袋寅泰は、ソロ・アルバムを1枚作った後、吉川晃司と合流しCOMPLEXを結成します。もともと仕事とは関係ないところで飲み友達だった彼らが初めて一緒に仕事したのがCOMPLEXであり、そこに待っていたのは不幸な結末でした。シーンの行く先を冷静に捉え、プロデューサー的視点に磨きがかかっていた布袋が目指した地点は<売れ線のロック>でした。逆に、渡辺プロダクション所属で、正に芸能界の王道といえる環境で育ってきた吉川は”ミュージシャン”としてアーティスティックな路線を求め、いきなり2人の志向は対立します。そんなことを言いながらも芸能人的な振る舞いをする吉川を、布袋はやはり自分とは別の世界の人間だと感じたようです。それでも1stは成功を治めますが、2ndアルバム「Romantic 1990」の多くは、2人で別々にレコーディングすることになります。それであのクオリティなのが凄いですが。

ドラムとベースを打ち込みに任せ、生のバンド・サウンドとは違うマシーン的なビートを作り出したのは、布袋のクラフトワーク趣味の延長という一面があります。BOOWYの頃に出来なかったアイデアを試してみたかったのではないかという気もしますが、ソロでジグ・ジグ・スパトニック的なサウンドを試してみたことで(「C’mon Everybody」など)、その反省も踏まえてCOMPLEXで作るべきサウンド像がより明確になったのではないかという気がします。それこそが、ティーンに向けた、分かりやすくキャッチーなロックンロール・サウンド。つまり、カッコいいヴォーカルとギターだったのではないかと思うのです。ドラムとベースを極力シンプルにして、ヴォーカルとギターを浮き立たせる。これはBOOWYの時と同じ手法ですが、リズムを打ち込みにした分、よりデフォルメされて聞こえます。方法論でいえば、永遠のティーニーボッパー、AC/DCと同じなのです。

それがよく表れているのがデビューシングルとなった「Be My Baby」です。イントロの「Be My Baby」という分かりやすいフレーズをリピートするフレーズの強烈なインパクトに加え、極力音数を削ぎ落としたギター、シンプルすぎるコード進行と、ギターを始めたばかりのキッズがコピーするには最適な曲と言えるでしょう。

歌詞の面から言えば、「恋をとめないで」はまさにティーンエイジャーの初めての夜遊び感というか、女の子が大人の世界に一歩踏み入れようとする瞬間のときめきとためらい、それをリードしていく男の強さ。すこしキザだけど、男も女も一度は憧れるシチュエーションなのではないでしょうか。草食系が当たり前の今のご時世では、この感覚は伝わるでしょうか? アメリカであれば、男の子が目一杯気取った格好をして、女の子をエスコートしてプロムに行く。それが大人への第一歩です。COMPLEXの音楽は、今まさに大人の世界に踏み出そうとしている少年少女たちと同じ目線の音楽でした。BOOWYは不良の音楽であり、尖りすぎていた。その敷居を下げたのがCOMPLEXだとも言えます。

90年代初頭から日本の音楽シーンは、ミリオンセラーが連発。その裏で世の中はバブルが弾けます。93年頃からJ-POPという言葉が定着し始め、歌詞もそれまでの生活感のない派手な言葉から、ドリカムをきっかけに実生活の中の物語へと世界がシフトしていきます。その中でロックンロールのスピリットは急速に失われていくのです。当時はバンドブームですから、シーンにロックンロールバンドは溢れていましたが、ハングリー精神が足りなかったのでしょうか、スピリットを宿したロックンロールは少なかったように思います。特にメジャーでは、多くのバンドが牙を抜かれていきました。そんな中、ロックンロールの本質を見失わなかった布袋はさすがです。ちなみに、ヒットを出すことや金を儲けることもロックンロールの大事な要素です。

COMPLEXが僅か2枚のオリジナルアルバムで消滅したのは残念でしたが、当時、既にそれなりに大人で欲望の塊だった布袋と吉川がこの路線を継続しても、早々に飽きていたんじゃないかとも思ってしまいます。

【収録曲】
1. PRETTY DOLL
2. CRASH COMPLEXION
3. 恋をとめないで
4. Can't Stop The Silence
5. 2人のAnother Twilight
6. MAGINE HEROES
7. CLOCKWORK RUNNERS  
8. BE MY BABY  
9. 路地裏のVENUS
10. RAMBLING MAN
11. そんな君はほしくない
12. CRY FOR LOVE


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