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【夢語りシリーズ】4「太宰府天満宮の梅」

その子は、脳に障害があった。小学校でも勉強はもとより、運動もただ走り回るだけで、ゲームのルールもわからないような子供だった。親は、この子の将来がどうなってしまうのか、心配でならない日々だった。

ある時、親も一緒に行く修学旅行があった。太宰府天満宮だった。
そこに辿り着くまでも興奮して一苦労だったが、なんとか手を引きながら他の生徒と同じように天満宮をお参りすることができた。
縁起担ぎで、天満宮にある梅の木から採ったという梅干を食べ、その実を家に持って帰ると家族が幸せになるとう伝説があった。

生徒たちは、ハチミツか何かで甘く柔らかくしてある梅干を口にほおばり、美味しそうに食べると、その大きな種を大事に紙に包んでポケットや鞄にしまった。

ところが、障害をもつその子は、おいしく梅干を食べ終わると、種を口から吐き出し、小さな手でつかんだと思うと、えいっと境内の方に投げてしまった。

親はそれを見て、たいそうガッカリしたが、仕方がなかった。

遠く境内の方に投げ捨てられた種は、多くの参拝者に踏みつけられ、地面にめり込んでしまった。

それから数年が経った。

気がつくと境内の横には、小さな梅の木が育っていた。梅は白い花を咲かせると、見事な実をつけた。それをハチミツに漬けて食べると、ことのほか美味しく、いままで食べたことがないくらいだと評判になった。

親はその話を聞き、あの子にはそんな力があったのかと深く感心した。しかし、その子は梅の実がなるちょうどその頃、天に昇ったそうだ。

太宰府天満宮の脇にある老木には、そんな言い伝えがあると、境内の案内版のくすんだ文字に書いてあった。


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