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「好きな理由」を探すために、おっさんが中学生になってみた話

「で、その『エビ中』のどういうところが好きなんですか?」
そう聞かれて答えに窮した。
ある製品のプロモーションのために何かにハマっている人に話を聞きたい、とのことでインタビューを受けたのだが、意外なところで詰まってしまった。
「やっぱり曲がいいからかなー?」
「あの、ライブのあとの多幸感がたまらないんですよー」
とりあえずは答えてみたけれども何かが違う。
何か自分が本当に感じていること、好きな感情を言葉にできていない。
「好きなことに理由なんてない」
そう言ってしまったほうが簡単なのかもしれない。
でも何かもやもやしている。
自分の好きな気持ちを説明する言葉が無いのか?
それとも好きな理由がそもそも無いのか?

「ないでーす!」
6月初めの土曜日、お台場のガンダム前に集まった観客は一斉に叫んだ。
「熟女になっても中学生、文句ありますかー?」
ステージ上の6人組の女の子が問いかける。
「ないでーす!」
大声でまた観客が返す。
なんだこりゃ。
僕は一瞬冷静になって思った。
「熟女になっても中学生って何だよ」
おかしい。
おかしいだろ、「エビ中」

エビ中。正式名称は私立恵比寿中学。
17歳から21歳の女の子6人組アイドルグループだ。
エビ中は「永遠に中学生」というコンセプトで活動している。だから中学6年生から10年生の女の子6人組だ。
この日は新曲の発売イベントとしてフリーライブが行われていた。
6月初旬にしては少し暑すぎる日に若者から中学30年生位の男女の人だかりが出来ていた。ざっと見て500人程度はいるだろうか。お台場ガンダム前はちょっとした規模の中学校となっていた。

正午の時報と共に、彼女たちのライブが始まった。ニューシングルのタイトル曲「でかどんでん」。ファンク風のメロディーにのってエビ中が躍動する。今までのエビ中にはない位ダンスを前面に押し出したこの曲。思わず息を飲んで見入ってしまう。盛り上がりつつも見入ってしまう。一見矛盾したように聞こえるが、客席の雰囲気を表現するといちばんその言い方がしっくりくる。
続く「スウィーテスト・多忙」ではエビ中ならではの伸びやかな歌声を響かせる。この二曲で十分過ぎるほど客席はあたたまった。
そして、冒頭の場面。「熟女になっても」という人を食ったタイトルの曲だ。
「熟女になっても中学生、文句ありますかー?」
「ないでーす!」
文字にすると意味がよくわからないコールアンドレスポンス。しかし会場の中学生たちの一体感がどんどん増して行く。

その時、ステージ上の異変に気づいた。
いない。あやちゃんがいない。
あやちゃんー安本彩花は先日20歳の誕生日を迎えた中学8年生だ。安定した歌声とボーイッシュな外見が特徴的で、お父さんやお兄ちゃんとの仲良しエピソードで僕らをほっこりさせてくれるエビ中には欠かせないメンバーだ。
そんなあやちゃんがいないまま、曲はラップパートに入っていった。その時だ、サングラスをかけたあやちゃんが颯爽とステージに現れた。
「カッコいい」
思わず声を上げてしまった。あやちゃんが難しいラップパートを完全にこなしている。これは門外漢の僕でもわかる。アイドルが申し訳程度にこなしているラップではない。歌詞とリズムを完全に体に叩き込んで自分のものになっているラップだ。

僕が初めてエビ中に出会った6年前、あやちゃんに対しては「ちょっと変わった子」との印象しかない。どこかいつも悩んでて、自分なりにいろいろ方向性を探るのだけれどもうまくいかない。そんな印象しかなかった。
それがここ数年彼女は変わり始めた。
それは後輩が出来たからかもしれないし、大切な仲間との別れがあったからかもしれない。
何が、と言われるとうまくは言えない。歌もトークもそうであるかもしれないし、表情や立ち居振る舞いかもしれない。ただ確実にキラキラと輝いて見えるようになった。これは比喩でもなんでもなく本当にそう見えるのだ。彼女を中心とした半径何メートルだけがキラキラと輝く光の粒で覆われている。少なくとも僕にはそう見えていた。

そんな彼女がまた「カッコよさ」という新たな魅力を身につけてきた。その事実に打ち震えていた。コールも何も出来ずに口をあんぐりとあけながら佇むしかなかった。すごいよ、あやちゃん。

あやちゃんだけではない。エビ中はみんな進化している。中学生がちょっと見ない間に大人びてしまうようにすごい速度で成長を続けている。エビ中は決して努力をしているところを表に出さない。けれどもいつもまっすぐに夢を見て、悩んで、笑って、泣いてすくすくと成長しているのだ。

そして見るたびに姿を変えて行く。同じエビ中は二度と存在しない。「すごいよ、エビ中」いつも彼女たちはそう感じさせてくれる。
そうか、この「すごいよ」だ。エビ中を好きな理由のひとつは。そして次会った時は何を見せてくれるのだろうかというワクワク感。それこそがエビ中の最大の魅力ではないだろうか。

ああ、やっとわかってきた。中学生の気持ちになって素直に自分の感情をたどって行けば良かったんだ。彼女たちが中学生の気持ちで頑張って行くのと同じで、自分も中学生の気持ちに戻る。そこに何か自分の気持ちがわかるヒントがあったんだ。
彼女たちはそれを教えてくれたんだ。

熟女になっても、おっさんでもみんな中学生。
難しくても中学生の気持ちで生きていこう。
そうすれば自分の気持ちがわかっていくのだから。
もし、その気持ちがうまく思い出せないようなら、また彼女たちに会いにいこう。
いつまでも彼女たちは中学生で待っていてくれるのだから。

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