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「ベッドルーム・ポップ」という曖昧な音楽ジャンル:その起源とルーツについて①

僕は三度の飯より「ベッドルーム・ポップ」が大好きです。ストリーミングが普及して以降、この「ベッドルーム・ポップ」というジャンルが大きく波及した時代なのは間違いないでしょう。でもこの音楽ジャンルとしての「ベッドルーム・ポップ」とは、そもそもどんな音楽なのかとても曖昧ですよね。いろんなメディアや音楽ブログでも普通に見かけるようになってひさしいですが、おそらく日本のメディアでしっかりまとまっているのはMikikiのこの記事くらいでしょう。

他の国内メディアで「ベッドルーム・ポップの必聴10組!」みたいな記事でまとまっていますが、海外の記事をパクったへなちょこ記事ばかりで、面白みもないです。でもこのMIkikiのこの記事を読めば、このジャンルの成り立ちやカルチャーの形成もバッチリ掴めるかと思います。でもこの「ベッドルーム・ポップ」というジャンルももう既に形式が定着して、正直もう面白みもないジャンルですし、終焉を迎えたかと個人的には思います(笑)。
今回のこのコラムではあくまでも「ベッドルーム・ポップ」を追ってきたいちリスナーとして、「そもそもベッドルーム・ポップってなんじゃ?」というものから、「ベッドルーム・ポップの流行」、そして「ベッドルーム・ポップの終焉」という3部構成のコラムで、どんなカルチャーの形成をしてきたのかなど改めて振り返っていこうかと思います。



「ベッドルーム・ポップ」の起源

そもそも「ベッドルーム・ポップ」という用語自体、「宅録音楽のポップス」的なニュアンスで使用されてきたものです。いまのようなジャンルを横断したサウンド的な用語で使用されるようなものではありませんでした。もともとは宅録技術というのは現代のようにハイファイ(ローファイなものもありますが)ではなく、ローファイで音が粗いのが基本的でした。その宅録技術が生まれてくるのが1980年代から1990年代となります。
やはりそう考えると「ベッドルーム・ポップ」の起源をたどり、始祖のようなものを考えるとあの人しか考えられませんね。
ローファイ・ミュージックの先駆者でもある、Daniel Johnstonですね。

Daniel Johnston

Daniel Johnstonはカルト的な人気を博しておりましたが、それに拍車をかけたのはNirvanaのKurt Cobainが『Hi, How Are You』(1983)のジャケットをあしらったTシャツを着用したこと、また彼の死後見つかった日記のお気に入りのアルバムにDaniel Johnstonの作品『Yip / Jump Music』(1983)を記していたことで、一気にその名前が広がりました。ノイズのざらざらした粗い音質で、そこに彼の無邪気でポップな歌メロがあわさる非常にシンプルな音楽。1983年だけで5作品出しているのは本当にすごいですよね。

残念ながら2019年9月に58歳という若さで亡くなってしまいましたが、そのときまさに「ベッドルーム・ポップ」が普及し始めたことでもあり、「ベッドルーム・ポップ」として括られていたアーティストがこぞってそれぞれのSNSで「R.I.P. Daniel Johnston」と投稿していました。「ベッドルーム・ポップ」の代表アーティストとしてもあげられるClairoはTwitterで投稿し、さらにSoundCloudにもカバーをあげていました。
ひとつ彼がそのジャンルの先駆者でもあり、若いアーティストからも尊敬されるミュージシャンであり、影響力があったことは間違いないでしょう。


孤高のシンガー・シングライターElliott Smith

Elliott Smith

そのほかに宅録の先駆者で「ベッドルーム・ポップ」の起源として挙げるなら、やはりElliott Smithもそのひとりでしょう。もともとポスト・ハードコアバンドのHeatmiserの一員として活動していた彼ですが、並行してソロでも楽曲を制作していました。それはハードコアとは真逆で、アコースティック・ギター一本の繊細で叙情的な弾き語りでした。1994年の有名なデビューアルバム『Roman Candle』は、彼の地下室でレコーディングされたもので、美しいフォークとポップな旋律で、当時の若者を魅了しました。そこから30年近く経った今でも彼の作品は若い世代のアーティストにも影響を与え、アコースティック・ギターのシンプルな旋律と、感傷に浸るような淡いメロディーは、10年代から現れる「ベッドルーム・ポップ」の礎を築いたと言っても過言ではないかと思います。


ジャンルのマッシュアップの先駆者、Beck

Beck

そして現代の「ベッドルーム・ポップ」を語る上で忘れてはいけないのが、ジャンルの横断をしつつ、ポップな旋律を奏でるアーティスト、Beckです。フォークやブルース、テクノ、ヒップホップ、アフリカ音楽、ノイズ音楽などなど、さまざまなサウンドが交錯し、ポップに落とし込んだ先駆者で、現在の「ベッドルーム・ポップ」のサウンドにも近しいアプローチをしていると個人的には感じます。Beckの通算3作目『Mellow Gold』収録の楽曲「Loser」は、いま聴いても斬新で、アンセム的な楽曲として世界的にも有名ですよね。ヒップホップ的なブーバップ・サウンド的なビートに、ローファイなアコギなどの音が溶け合い、そこにBeckのポップな歌メロが乗るという、とても「ベッドルーム・ポップ」のサウンドにも通ずるところがあります。そして彼は2000年代にかけても斬新なアプローチをしていきます。


宅録の技術的な進歩

今までのは現代の「ベッドルーム・ポップ」に通じる通過点で、その原点的な部分をピックアップしてきました。ここからより時代を進めて、「ベッドルーム・ポップ」の礎をさらに築いたアーティストとともにカルチャーの形成について解説していきます。
その後技術的にも進歩し、”宅録音楽”のレベルがグッと上がります。安価に機材も手に入れられるようになり、「DTM(Desk Top Music)」の普及やMacやiPhoneを購入すれば既に「GarageBand」がアプリとして搭載されているという、宅録で音楽を制作するアーティストが増えていきました。さらに2005年にはYouTube、2007年にSoundCloud、2008年にはBandcampが技術革新とともにサービスをローンチしていくことで、安価で宅録できるようになったアーティストたちは楽曲を制作し、先程あげたサービスに音源をアップロードしていくようになります。ここからそれぞれのサービスを通じて人気を博していくアーティストが増えていくことになります。


Alex Gの登場

Alex G

その流行の兆しが見え始めるのが、2010年代になり、現在では世界的にもカルト的な人気を誇るシンガー・ソングライター、Alex Gです。彼は2010年ごろから宅録で録音した音源をBandcampで発表しはじめ、徐々に話題を呼び、2014年のレーベル〈OrchidTapes〉から発表した『DSU』で一気に各種音楽メディアで絶賛され、日本でもその名が轟くようになりました。彼の音楽は前半の方であげたDaniel JohnstonやElliott Smithに通じるような、宅録音楽家の系譜を辿るサウンドを奏でていますよね。
ちなみにいま名前をあげたレーベル〈OrchidTapes〉からはコンピレーションアルバム『Boring Ecstasy: The Bedroom Pop of Orchid Tapes』というのがリリースされており、ここにAlex Gも参加しています。このコンピレーション名にも”The Bedroom Pop”と含まれているように、そういった宅録のアーティストが2010年代に増えていったことが窺えます。


ネットからのカルト的ベッドルーム・ポップ・スターの登場

salvia palth 『melanchole』

Alex Gと同時期にカルト的な人気を博した宅録音楽家が存在します。それがニュージーランドのDaniel Johannのプロジェクトsalvia palthです。彼が15歳の時に出したアルバム『melanchole』は口コミで広がり、たったこの1枚しかいまのところ出していませんが、世界中のインディー・ファンを虜にしました。

Car Seat Headrest

ここから挙げたらキリがないがCar Seat Headrestも、10年代の「ベッドルーム・ポップ」の幕開けを切り開いたアーティストです。2010年にBnadcampで4作も一気に発表し、世界中の早耳リスナーを虜に。「The Strokesをカーステレオで流したら…」という表現が似合うような音楽でめちゃくちゃかっこいい。The Strokesのからっからの音をよりローファイにして、雑多に詰め込んだようなサウンドですが、やはりポップですよね。

しかし上記のアーティストだけでは、まだまだ現代の「ベッドルーム・ポップ」と呼べるようなサウンドの特徴を捉えられていません。次回のコラムでそのサウンドに迫っていこうかと思います。

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