見出し画像

「ベッドルーム・ポップ」という曖昧な音楽ジャンル:サウンドの広がり②

前回のコラムで大まかな「ベッドルーム・ポップ」の起源と、2010年代の盛り上がりについて触れてきました。サウンドの特徴としては、ローファイな粗い質感の音で、アコースティック・ギターでの弾き語りといったフォーク、インディー・ロックみたいなサウンドが多かったと記しました。

しかしいまのストリーミング時代以降の「ベッドルーム・ポップ」のサウンドの定義はもっと幅広く、それこそBeckのようにさまざまなジャンルを横断したサウンドを奏でている印象があります。
それではそのサウンドに影響を与えた2010年代のアーティストを紹介しつつ、現代の「ベッドルーム・ポップ」と言えるようなサウンドを作り上げたアーティストに触れていきます。



チル・ウェイヴを牽引したToro y Moi

Toro y Moi

現代の「ベッドルーム・ポップ」のサウンドを語る上で重要なキーパーソンになるのが、Toro y Moiです。彼は10年代に流行した音楽の”チル・ウェイヴ”に括られることが多く、Washed Outとともにこのジャンルを牽引したひとりです。そもそもチル・ウェイヴのサウンドの特徴はWikipediaに載っているものが一番わかりやすいのです。

「ノスタルジックなメロディー、チープな打ち込み、アンビエントの要素をブレンドした強烈なレイドバック感のあるシンセ・ポップ…」

参照元

上記のサウンドが特徴となるのですが、やはりローファイの系譜をついでおり、どこかノスタルジアなサウンドを奏でているのがチル・ウェイヴであるのですが、現代の「ベッドルーム・ポップ」もそのムードを継承していることは間違いありません。
特にToro y Moiのようにシンセ・ポップやサイケ・ポップ、そのほかにソウルやファンク、ディスコ、ハウスなど、ブラックミュージックの要素を絡めたのが特徴です。そしてさらにチル・ウェイヴから派生したジャンル、Vaporwave(ヴェイパーウェイヴ)も現代の「ベッドルーム・ポップ」のサウンドに影響を与えているかな〜と個人的には思ったり…。


インディーロック・ヒーローMac DeMarco

Mac DeMarco

さらにもうひとりキーパーソンとなるのが、カナダのインディーロック・ヒーローとも称される、Mac DeMarcoです。2010年代のインディー系の音楽の中でも象徴的なサウンドでもあります。レイドバック気味のメロウなギターサウンドに、脱力感あふれる歌声があわさったもの。そのギターサウンドはスカスカのローファイな音像でもあり、サイケな質感もあわさっています。Mac DeMarcoも最初はGarageBandを使って音楽を制作していたようで、まさに「ベッドルーム・ポップ」で、現代のベッドルーム・ポップ・アーティストも影響を受けた音楽として名前をあげるのも納得です。


「ベッドルーム・ポップ」に多大な影響を与えたFrank Ocean

Frank Ocean

最後に現代の「ベッドルーム・ポップ」を語る上で最も重要になるアーティストが、Frank Oceanです。2012年の『Channel Orange』もそうですが、特に2016年の『Blonde』と『Endless』は多くのベッドルーム・ポップ・アーティストに影響を与えています。この作品自体が「ベッドルーム・ポップ」のひとつのフォーマットを作り上げてしまったと言っても過言ではないと思います。1曲目「Nikes」の歌声を変化させたピッチシフトや作品全体のジャンルレスなムード。そして自身の内側を赤裸々に歌い上げていることや人間の脆弱性を示したことなど、多くのアーティストに影響を与えています。またFrank Oceanが所属したコレクティヴ、Odd Futureの存在自体も大きいですよね。Tyler, the Creatorをはじめ、Earl Sweatshirt、SydやSteve Lacy率いるThe Internetなどがおり、名前を見るだけでもいまの音楽シーンを牽引するアーティストばかり。


分岐点となる2015年

こんな感じで現代の「ベッドルーム・ポップ」のサウンドというのは一言で示すのは難しく、さまざまなカルチャーの流れと技術革新などがあり、形成された新たな音楽ジャンルでもあり、文化でもあります。なので10年代前半での音楽メディアでの「ベッドルーム・ポップ」の使われ方と、いまの使われ方では全く意味が異なります。その分岐点となるのが2015年以降。それはSpotifyやApple Musicといったストリーミングサービスの普及が全世界的に見られ、「ベッドルーム・ポップ」という音楽ジャンルのさらなる波及を呼んだのです。それではここから「ストリーミング時代のベッドルーム・ポップ」について触れていこうかと思いますが、その前に何人か触れなくてはならないアーティストがいるので、そのアーティストも紹介しておきます。

現代の「ベッドルーム・ポップ」の先駆者、Only Real

Only Real

もう何アーティスト紹介するんだという感じですが、やはり現代の「ベッドルーム・ポップ」を語る上で、重要というか、いままで上記で説明してきたようなサウンドをカルチャーの影響もなく、突如2013年に現れたのがウェスト・ロンドン出身のNiall Galvinによるソロプロジェクト、Only Realです。現代版のBeckとも称される彼ですが、音楽を聴けば「なるほど」と感じるかと思います。Mac DeMarcoのようなローファイでメロウなギターに、ヒップホップのブーンバップビートと、軽くクールな彼のフロウがあわさったもので、いままでこのコラムであげてきた「ベッドルーム・ポップ」のサウンドに当てはまりますよね。ちなみにOnly Realでのデビューアルバム『Jerk At The End Of The Line』がリリースされるのが、分岐点となる2015年で、それもなかなか面白いですよね


煌びやかなインディー・ポップを奏でる、Soccer Mommy

Soccer Mommy

インディー・ポップ的なアプローチをした「ベッドルーム・ポップ」の代表者といえば、Clairoが挙げられますが、実はSoccer Mommyの方がひとつ先に有名になったんですよね(厳密にいうとローファイ・ポップ的なアプローチがClairoですが…笑)。Soccer Mommyは、ナッシュビル出身、現在はNYを拠点に活動するSSW・Sophie Allisonによるソロ・プロジェクトです。彼女は2015年からBandcampで音源を発表しはじめそれが反響を呼んで、Alex Gも発表したレーベル〈OrchidTapes〉から『for young hearts』をリリースしたことで、より話題を呼びました。爽やかで煌びやかなインディー・ポップ・サウンドと、甘美でアンニュイな歌声が心地良いですね。


ダークなソウルとレトロを融合した、Puma Blue

Puma Blue

よく現代の「ベッドルーム・ポップ」の代表的なアーティストとしてあげられるUKのYellow Daysですが、実は密かにBandcampで発表していたのがロンドンのJacob Allenによるソロ・プロジェクトPuma Blueです。名曲「Only Trying 2 Tell U」のデモが2014年6月の時点でBandcampにアップロードされています。彼の音楽はざらついたLo-Fiヒップホップ的なビートに、ダークでレイドバックしたギターが絡み合うのが特徴的です。そこに彼の優美で気怠い独特の歌声があわさることで”Puma Blue”というジャンルを確立していますよね。このメランコリックで暗雲立ち込む「ベッドルーム・ポップ」は、この後もロンドンを中心に出てくるのが特徴的ですが、その先駆者的になったのがPuma Blueですね。

ここまでがいわゆる「ベッドルーム・ポップ」の先史的な部分を紹介してきました。このコラムは3回に渡って書いていきますと最初に言いましたが、あまりにも量が膨大すぎて4回になりそうです(笑)。
次回のコラムではストリーミング時代の「ベッドルーム・ポップ」の代表的なアーティストについて触れていこうかと思います。

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?