【VFK】VS町田(A)10.19 連敗脱出

天皇杯優勝の興奮と、吉田達磨監督退任の現実の狭間で迎えた一戦。120分以上の激闘で疲弊した選手を休ませ、キーパー河田以外は天皇杯からフルメンバーチェンジ。

チャンスを得た選手たちにとっては、来季以降に向けた最後のアピールチャンス。先発ウィンバックに本職がいないため、いつも通りのボール保持は困難を極める。

天皇杯のような劣勢が予想され、町田という格上に対して、甲府のサブチームがいかに現実的な戦法で立ち向かっていくか。そんな勝負になる。

町田イレブンは、甲府の天皇杯制覇に際して、ガードオブオナーを実施。今シーズン限りでの引退となる野澤英之臨時キャプテンを先頭に祝福を受けながら入場を果たす。

◆先発◆
      リラ
   イゴール 飯島
米原 野澤英 松本 大和
 レナト 野澤陸 北谷
      河田
◆ベンチ◆
岡西 浦上 須貝 フォゲッチ
長谷川 鳥海 ジェトゥリオ

◆前半-イゴール初ゴール◆
河田、リラを軸に勝利を目指す甲府。内容は当然町田が上回る。太田、ドゥドゥという甲府に在籍した思い入れの強いアタッカーの存在も脅威だった。

平戸の存在もセットプレーをはじめとするさまざまな場面で怖さを発揮してくる。

だが、甲府もリラを軸に、イゴールで仕留めるという新たな形を披露。リラがキープしてイゴールが決める。

リラにとってイゴールはパスを出しやすい存在のようだ。今までリラからは見たことがないような迷いのないパスが、イゴールへは供給されていた。

劣勢の中、火を噴いたのは、その2人の連携からのイゴールの右足である。

シーズン終盤になるにつけ、キック精度と脅威度を増す河田のパントキック。裏に抜け出してペナルティエリア内でボールをキープすることに成功したリラは、後方から走り込んだイゴールに丁寧に落とす。

イゴールが素晴らしいインパクトでボールをゴールへ打ち込む。天皇杯決勝の川村の左足を彷彿とさせるような凄まじい勢いのシュートは、キーパーの手をわずかに弾いて、勢いよくゴールへ飛び込んでいく。

攻撃面で違いを生み出せる選手、イゴール。Jリーグ初ゴールは、見事な弾丸ミドルだった。

◆後半-取り戻すリズム◆
この試合、先発に選ばれたのは、今まで練習に腐らずに取り組んできたメンバーだった。特に、レナト・ヴィスキについては、いつやる気を失ってもおかしくない状況だった。

だが、彼はシーズン終了まで腐らずにやり続けた。その証明がこの日のパフォーマンスだったように思う。劣勢の中、レナトが摘んでくれたピンチの芽、防いでくれた決定機は抜きん出ていた。特に、カバーにおいて素晴らしいプレーぶりを見せてくれた。

荒木、鳥海、須貝、長谷川、浦上。1人ひとりが投入される度に取り戻される構成力と攻撃の質。まるで、彼らの価値を改めて感じさせてくれるかのような演出にも見えて。

サブメンバーの逞しさとともに、スタメンの質の高さが融合され、町田への圧は間違いなく高まっていった。

しかし、ひょんなことから同点弾が生まれてしまう。誤審である。

平戸の右コーナーキックがファーサイドへ流れていく。なんとかクリアしようと食らいつく荒木。だが、わずかに高さが足りない。

それをすかさず折り返す太田だったが、その瞬間、鄭大世は、オフサイドポジションにいた。戻りオフサイドである。一度最終ラインよりも低い位置に戻ってからレナトの背後をとった動きは流石。

そして、頭でしっかりとゴールへ流し込む。鄭大世が決め切り、喜びを爆発させることは当然で、その権利はある。副審の見逃しもサッカーだから当然起こりうる。

しかし、それによって1人の外国人プレーヤーの素晴らしいパフォーマンスが、失点の原因としてカウントされてしまったことが悲しい。

チームとしても、劣勢の中掴んだ虎の子の一点を守り切ることができなかったのだから。

◆AT決勝弾◆
待ちわびた光景がようやく実現する。選手交代によって本来のパフォーマンスに近い状態を発揮できるようになった甲府は、町田ゴールへと迫った。

リラが体を張り、起点となる。ポストプレーもいつも以上に冴え渡る。しかし、ミドルレンジ以上のパスの質は一朝一夕で上がるものではない。

逆サイドでフリーで走り込む長谷川に合わせるだけのパスを、ディフェンスに引っ掛けてしまうリラ。千載一遇のチャンスをフイにし、怒りを露わにする長谷川に、平謝りのリラ。

いつもなら、このまま試合終了となってしまう流れ。だが、この日の甲府は違った。


90分+5分。

右センターバックの浦上が、須貝のごとく高い位置をとり、ボールを拾うと、意表をつくループパスを松本に通す。

松本は相手ディフェンスと競り合いながらも、体を投げ出して中央へ折り返す。

そこへ走り込むのが、甲府の誇る重戦車ウィリアン・リラ。引っ張られようとも、後ろから足を伸ばされようともびくともしない強靭なフィジカル。

松本から託された最後の希望を、その額で捉え、ネットへ突き刺してみせたのである。

劇的な、あまりに久しぶりのAT決勝弾。チームの喜びがゴール裏に向かって爆発する。

吉田達磨監督の本当に大切な教え子が伝えてくれた思いと、届けたい勝利。

熱い思いが結実させた12試合ぶりの勝利だった。


試合後の監督インタビューは、そして、ロッカールームで喜びを爆発させる様子は、吉田達磨監督の甲府の選手、そして工藤選手への愛情に溢れていた。

その思いは、きっと多くの人に届いたと思う。

その後、工藤壮人選手逝去のニュースに触れ、その人柄の素晴らしさ、存在の大きさが、悲しみとともに胸に刺さる。

心からご冥福をお祈りいたします。

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