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082 働くことについて

2011年の春頃は平々凡々な会社員として、会社に言われるがままに東京の勝鬨で暮らしていた。

夢だった専門職として入社したはずの会社ではコミュニケーション力がもてはやされ、個人の思いとは裏腹に総合職へとキャリアアップ。住みたくもない東京でやりたくもない仕事があてがわれる毎日に、半ば諦めのような感情を抱いていた。

そこに起きたのが東日本大震災。

埋立地である勝鬨は地震で大きく揺れ、歩道は捲れ上がり、スーパーマーケットからは商品が消えた。

被災者になる経験ははじめてだったけど、日常生活もおぼつかないうちから震災前と変わらず仕事は動き出し、新たに生まれた多くの課題に追われる日々を過ごした。

震災は震災、契約は契約。

テレビから漏れ聞こえてくる人々の悲しみや、日々増えていく難題がどこか別世界であるかのように、自分の目の前には、変わることのない日常が続いている。

そんな時、SNSを通して多くの友人知人が動き出していることに気づいた。

災害救助に行く友人や、ボランティアとして活動をはじめた友人、会社を利用して東北で仕事を生み出すプロジェクトをはじめた友人、NPOを立ち上げた友人。

多くの友人たちが自分の気持ちに素直に向き合い、今までの生活を捨ててまで被災者の力になりたいと走り出した。

その行動に心が大きく揺れ動かされたが、それでも自分に与えられるのは人助けとは無縁の仕事。

震災は震災、契約は契約。人は人、僕は僕。

自分の気持ちと現実がかけ離れていくことに気づきつつも、安定した仕事をやめる勇気なんて到底なかった。

だから東北で活動する友人たちの投稿から目を逸らして暮らした。

まぁ目を逸らしたからといって、眩しさから逃れられるわけもなく劣等感だけが増していったのだけど。

そんな頃、親しい友人から「募金を募るイベントをしたいから手伝ってよ」と声をかけてもらった。

この言葉にハッとした。

「被災地へ行かなくても、自分の得意なことで貢献できるんだ」

イベントに賛同してくれる多くの仲間たちが集まり、それぞれの想いを寄付金という形で東北へ届けることができた。

そして、その時の経験が僕の背中を後押ししてくれ、定年まで働くものだと思っていた会社を退職し、今の生活へと続いていく。


2018年には日本豪雨で、生まれ育った岡山が災害に遭い、友人たちも少なからず被災した。

その時は、家財の運び出しや家屋の解体など肉体を使ってボランティアをしたのだが、多くの悲しみを前に、日を追うごとに心がどんよりとしていった。

そんなタイミングで大阪から「ねぼけ堂」さんが炊き出しに来てくれた。

泥だらけの冷え切った体に染み込むあたたかい料理。

あの炊き出しがなければ心も体も、悲壮感に飲み込まれていたかもしれない。


今、災害が起きたばかりのタイミングでこんなことを書くべきではないかもしれない。

でも、僕は思う。


現地に行けない、役に立てないと考えている人にだって、それぞれがそれぞれの持っている技術や知識で、被災地の役に立てることなんていくらでもあるんだって。

今この瞬間じゃなくても、被災地を見続けていれば1ヶ月後、半年後、そのタイミングは必ずある。


いや、もしかしたら普段の暮らし自体をアップデートするチャンスなのかもしれない。給与を対価に働くのではなく、人のために社会のために働ける暮らし方に。

残念ながら僕たちの暮らす日本は災害大国。

これから先もきっと災害はおきるし、自分が被災者になる日もきっとくる。だからこそ、何不自由ない日常であってもお互いに助け合って生きていかなきゃいけないんだなって思う。

なんてね、なんだか偉そうにごめんなさい。

2024年、困難なスタートになりましたが、今年も皆さんに喜んでもらえるよう、楽しんでもらえるよう、そして助けになれるよう頑張りますので、みなさま方におかれましても、高津を何卒よろしくお願いします。

***


-もの-

日本の本日 小野博著

震災から数年経った頃、友人から出版記念のトークライブでインタビュアーをして欲しいと頼まれた。
著者は出口のない日本での暮らしから逃れるようにオランダへ渡り、以降15年間、日本を考えることもなく暮らしていた日本人カメラマンが、震災を機に日本についてもう一度向き合うために、日本を旅し、綴った本だという。
当日、ご本人にお会いするとたまたま同郷、岡山の先輩であることがわかった。
岡山は晴れの国とも言われ、震災とは無縁の町だと思っていたし、トークショーでもそういう話をしたのだが、数年後には倉敷が被災した。
改めて読み直して、考えることが多い。
今回の地震、今まで以上に、多くの人の「役に立ちたい」意識を強く感じる。

「すべてのものは、ゆっくりと変わっていく。この国も、僕たちも」

やっぱり今書くことじゃなかったと思う。
でも、今、こんなことしか書けないや。


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