#44 点が線

ま、真奈美?!

えっ?

そんな事を考えてる余裕も無く
「たまぁ!追いかけるぞ!」

「ハ、ハイッ!」
そうだ真琉狐さんを止めなきゃ!

入り口は少し離れているが会見場はどうやら控室から廊下を挟んだ向かい側みたいだ

ずんずん早歩きで入り口に向かう真琉狐さんの背中が見える

「たまぁ!」

「ハイ!」

私と夢子さんは走って回り込み両手を広げ制止する

「何する気だ?!落ち着け!!」

真琉狐さんはフーッと深く溜息をつき
「、、、どいてください」

「そんなブチギレた状態のアンタを行かせられる訳ないだろっ!!」

「フーッ、、どいてください」

「どくわけねーだろぅっ!!」
真琉狐さんの言葉を遮る様に即答する

「、、、夢子さん、今日まで私は心に蓋をしてきました。アイツがいきなり画面越しに現れた時もずっと、、誰にも気付かれない様に、、きっと交わる事なんかないだろって、、でもね夢子さん、アイツは今!私の前に現れたんです、、そしてセカイのベルトと夢子さんの名前を出したんです、、プロレスラーとしても高梨真奈美としても許せるワケないじゃないですかーっ!!」

そう言い放ち真琉狐さんは私にチラッと目を向けた

「たまちゃん、ゴメン!」
その刹那、足を引っ掛け合気道の技の様に私を転倒させ走り去る

「たまぁ?!クソッ、真琉狐ーっ!!」

夢子さんそして私も急いで起き上がり真琉狐さんを追う
何とか追い付き扉の前で夢子さんが羽交い締めにする

真琉狐さんはもうなりふり構わず叫び声を上げながら私と夢子さんを振り払おうとする
だがこれが火事場のなんとやら2人掛かりでも力負けしてしまう

その時、扉が開き亀さんが廊下に出てくる
驚いた表情で
「なにやってんのよ?!アンタたちー!中まで聞こえてるよ!」

「ナイス!亀ちゃん!一緒に真琉狐抑えて!」

しかしその声を掛けた瞬間に少し手が緩んでしまったのか真琉狐さんはスルッとすり抜け亀さんを押しのけバーンッと大きな音で扉を開け会見場へ入って行った

「クッ、行こう!」
私と亀さんに夢子さんは目で合図する
亀さんはこの時点で何か察したようだった

私たちも中に入る
モニターで見ていたよりは会見場は狭く感じられたが久々の記者会見というのも加味してだろうかプレスの人たちでいっぱいだった

そして無数のシャッターが私たちに向け切られる

真琉狐さんはテーブルの前で薨を睨みつけ立っていた

そんな真琉狐さんをさっきと変わらず涼しげな表情で見つめる薨


わあぁー薨だぁ!綺麗ー!
て!思ってる場合じゃないっ!!
なんでこんな時にこんなこと考えんのよ!
バカ!私!



「カァァーコーゥッ!!」
真琉狐さんが薨に向かって叫ぶ

んん?よく聞き取れなかった
でももしかして?
もしかして?


カーコ?


真琉狐さんは少し詰め寄り
「舐めてんの?、、舐めてる?、、舐めてない?、、舐めてんのかって聞いてんだよっ!!」
バーンとテーブルを叩いた

一切動じず真琉狐さんを見つめる薨

緊張感が走り水を打ったかのように静まり返る会場にシャッター音だけがただうるさく響く

薨の目の前まで近づき
「てめえ!どこで誰の名前出してんのかわかってんのかぁぁーっ?!」

真琉狐さんの腕が薨の胸元に伸びようとした瞬間に夢子さんが後ろからフルネルソンの状態で羽交い締めにしてそのまま床に引き倒し押さえ込む

「星野さん!終わりだ!!中継切らして!たまぁ!亀ちゃん手伝って!」

「ハ、ハイ!」

「離せ!離せ!」と叫ぶ真琉狐さんを必死に押さえる

「星野さん!早くっ!!カメラも止めさせて!記者会見は終わりだー!!」

星野さんも狼狽えるが社長と何やらアイコンタクトし社長もうなづいた
そしてすぐ田端さんに中継を切れと合図する

「本日はお集まりいただき誠にありがとうございました。これにて記者会見を終了させていただきます!えー、速やかに退場の方よろしくお願いします」
そう言ってすぐに側にいたスタッフに耳打ちし記者たちを出口に誘導させた

納得できない記者たちはなかなか出口に向かおうとはしないがベテラン記者で顔も広いガンタさんも「まあまあ」と言いながらスタッフと一緒になって誘導してくれ渋々記者たちは会場を後にしていく

そして社長も薨も退席する為立ち上がる
その様子を目にした真琉狐さんは涙を溢しながら

「カーコ!逃げんな!!逃げんじゃねぇー!!私がオマエとやってやるっ!オマエがセカイのベルトと雨宮夢子の名前を軽々しく出したこと!私が必ず後悔させてやるっ!!おいっ!社長!!試合組め!聞いてんのかジジイ!!逃げんなよっ!絶対ブチ殺してやるからなあぁぁーーっ!!」
感情を剥き出しにした真琉狐さんの心の叫び

社長と薨は振り返ることなく会場を後にした
2人の背中にこの声は届いたのだろうか?

会場を出るのを見届けた真琉狐さんは
「うわぁぁー、ぉぉおぉぅん」
床に突っ伏したまま泣き崩れた

そして私たちは押さえていた手を離す

真琉狐さんの悲痛な泣き声が私の胸を刺した

泣き止まない真琉狐さんを夢子さんは頭を撫でながら
「真琉狐ぉ、痛かったね?ごめんね」

私も後輩がこんなことしていいのかわからないけど後ろからギューっと真琉狐さんを抱きしめた
これくらいしか真琉狐さんにしてあげることが思いつかなかったんだ


何故、人は心を抉られる様な苦しい想いをしなくちゃいけないんだろう?


真琉狐さん、薨、そして英実さん
3つの点が私の中で線で繋がった

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