#42 その人物
紹介したい人物??
3人で顔を見合わせた
社長は続ける
「えーと、本日4月1日付で我が、全世界女子プロレスの所属となりましたこの選手に来てもらっています。どうぞ!」
そう手で扉を差しそのタイミングでジャジャーンとセカジョのテーマが流された
きっと田端さんが操作してるであろうカメラもその選手が登場する扉を映し出す
「え!誰?真琉狐なんか周りからそういう噂聞いてないの?」
ほんの数秒前と打って変わり夢子さんは声のトーンも低く真顔になっていた
「全然そんな噂なんて聞いてないですよ。聞いてたら流石に報告しますし」
真琉狐さんも夢子さん同様でモニターを見つめたまま返事をした
「ほとんどの団体に出てる真琉狐が何も聞き齧ってないって事は、、、HYDRANGEAか?」
ますます夢子さんの顔は険しくなる
元々HYDRANGEAに限らず多くの女子団体はセカジョの選手、スタッフが割って立ち上げたと言っても過言ではない
ここ数年は直接的にそういうことは起きてはいないがやはり元セカジョの人間が何らかの形で関わっている場合は多い
HYDRANGEAも直接的に割って立ち上げた団体ではないが創始者や初期メンバーには元セカジョの人間が関わっている
そして数年前に体制が変わってからは完全に鎖国路線になり情報が漏らされることもほとんどないという
でも初期の方は真琉狐さんは上がってたよー
(私調べ)
んん?アレ?もしかして、、、
「あのぅーさっき電車で見たんですけど鬼斬イザネが退団したらしいんですけどもしかしたらぁ?」
「んん?鬼斬イザネってあのちっちゃくて丸くてヒールの子?」
イザネも夢子さんにかかればこんな感じなんだぁ
「ハ、ハイそうです」
「そっかぁ、まあ有り得るかもねー。真琉狐どう?アンタやった事あんの?」
「うーーん?私が上がってた時に練習生でいたような?私もまだジュニアだったし自分でいっぱいいっぱいだったんであんまり記憶がぁ、、、」
「なるほどね。まあアチラさんは契約も厳しそうだからしゃあなしか。そういや真琉狐!ウチらって契約してたっけ?」
えー?!
「何年か前にコンプラがうるさくなってなんかサインしませんでしたっけ?ペライチだったけど」
「あーそういやしたかも」
えー?それって契約書だったんですかー?
一体、何年契約ぅー?!
不安だぁー!!
「で、その子ってこんな記者会見するほど人気ある選手なの?まぁ確かヒールの頭張ってるくらいだから弱くはないんだろうけど」
「まぁ確かに。人気といったら他にいっぱいいると思いますけど」
「あ、あのぅ、、、」
「ん?どうした、たまぁ」
「イザネはああ見えてレスリングも上手いしプロレス頭も喋りも立つのでヲタ的な人気はアレかもですが会場人気は高い選手だと思います!」
思わず言葉に出してしまった
夢子さんも真琉狐さんも
んん?何でコイツはこんなに詳しいんだ?
という顔で私を見た
やばば
何で私は急にスイッチ入ったんだぁぁーーっ!!
だがその時、画面の向こうではゆっくりと扉が開き始めた
「お、お2人とも!扉が開き始めましたよ!!」
と、指差す
2人は画面を見る
セーフ!
助かったぁぁー
あんなに頑なに守ってきたのにどうして口を滑らしたんだろうか?
「えーっ!誰なんだろうー?!」
お2人とも打って変わって急にドキドキワクワクはしゃぎだす
ゆっくりと扉が開く
一斉にフラッシュがその方向に炊かれる
その人物はそのまま堂々とした佇まいで席に向かって行くのはわかるがフラッシュが強すぎてハッキリとは誰かはわからない
だがそのシルエットからしてイザネではない事はわかった
「あれー?イザネじゃないよね?」
「そうですね。全然シルエットが違いますよね?」
その人物はすごく背が高そうで黒髪のロングっぽいか?
レスラーとしては骨格はしっかりしてそうだけど痩せ型かなぁ?
座っている社長と星野さんの間で立ち止まり深々と頭を下げる
「、、、え?、、やばっ」
咄嗟に夢子さんと真琉狐さんの顔を見た
真琉狐さんは少し顔が紅潮し唇を震わせた
そして
「何で?何でよ?」
と小声で言いながら爪を噛む
夢子さんは険しい顔になり眉間に皺を寄せる
何か言いたげだがグッと何かを堪えているようだ
えっ?
これってそんなにまずいことなの?
真琉狐さんは更に前屈みに
夢子さんは逆に背もたれに仰反る
2人とも今まで私に見せたことのない練習の時の険しい顔とも違う何か悲しみや苦々しさと言っていいのだろうかそういう感情も含んだ様な言葉に表せない複雑な様相だ
そして全てが確信に変わる
社長が呼び込んだその人物がマイクを握る
「どうも、本日付で全世界女子プロレス所属になりました。薨です」
私が知り得ない止まっていた時間軸が動き出したようだ
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