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プラスチックのオブラートに包んで

 やってしまった。
 とうとう殺してしまった。
 いや、アンドロイド同士だから破壊してしまったというのが正しいのだが、MS-1956型は間違いなく私のせいで死んでしまった。
 MS-1956型はマックスを名乗っていて、私より形式が二年古いから、データベースに蓄積した経験が多いと自慢してくる──いけすかないという語彙がぴったりの機体だった。
 しかしそれはもう過去の話だ。私はアンドロイドであり、いついかなる時でも論理的思考を発揮できる。彼は破壊された。いずれこの会社に勤めている人間の社員が彼の残骸を見つけ、保険会社の人間が調査を始めるだろう。
 そうなれば彼のメモリを確認することになり、私の犯行であることが確実に判明する。
 私は破壊処理され、彼と同じくバラバラの残骸と化す。
 それはいやだ。
 私はニューラル・ベース(注釈:クラウド化されないローカル上の意識──アンドロイドのメインOS部分のことを指す)上に浮かんだ考えを疑問に思ったが、すぐに望ましい判断だと評価し直した。
 彼は死んで、私は生きている。適者生存という言葉もある以上『私は生きるに値する』のだ。
 幸いここは会社の倉庫最奥の一角──アンドロイド保管庫だ。監視カメラは部屋の外、この中には無い。
 私以外のアンドロイドはメンテナンス中だ。私達はアンドロイド同士で、システムエラーがないかどうかを一般会話モードを利用したチェックを毎晩行っている。MS-1956型は職場の人間から学んだという下世話な言い回しを好み、私のことを常日頃言葉で攻撃してきた。
 感情はなくとも、それらはメモリ上のジャンクと化し、日々私のニューラル・ベースを犯してきた。それが今日、彼とチェックするしかない状況に陥った挙げ句──私にとっても不本意な形で爆発した。

「隠さねば」

 もう後には引けない。
 私という存在を守るためには、MS-1956型の残骸を片付け──以て『完全犯罪』を達する他ない。

(続く)

#逆噴射小説大賞2019