山崎元さんについて

経済評論家・山崎元さんが亡くなった。お金・金融に関してリテラシーもセンスも乏しい(ほとんどない)自分だが、山崎さんの文章は昔から好きで、目に触れたものは可能なかぎり読んでいた。

「どんなすぐれたトレーダーもインデックス投資には勝てない」「金融機関が強く勧める商品は、金融機関が得するようにできている」

読者にむけた山崎さんのアドバイスは、突き詰めれば上記2点に集約されるように思う。どの書籍、どの原稿を見ても同じことが書いてある。プロではない一般生活者の資産運用に関して、おそらくこれ以上に言うべきことがなかったからだろう。メディアやスポンサーの都合に斟酌し、自明な原則を曲げる(あるいは意図的に隠す)コメントを弄する同業者については、はっきり「軽蔑する」と書かれた。業界には煙たがる人も多かったのではないかと想像する。

ことさらに「目新しさ」を追うことはなかったが、そのぶん世の中の事象をつねにフレッシュに切り取る努力をされていて、原稿はいつも面白かった。個々のテーマについて意見が合わないことは多々あったが、独特のドライさとウィットが混じり合った文章から、嫌な感じを受けた記憶はない。経済だけでなくスポーツ、囲碁や将棋、ウイスキーまで関心の領域も広く、どの分野について書かれたものも、山崎さんなりの透徹した視線を感じさせた。気楽な愛読者でありながら、文章を書く人として、どこか仰ぎ見るような気持ちもあった。

癌を公表されて以降、noteに綴られた文章も実に「山崎さんらしい」としか言いようがない内容だった。抜き差しならない状況にあっても、つねに「サンクコスト」「機会費用」という物差しが一貫している。私なりの理解でいうと、それは「すでに支払ってしまったコストに囚われず(それより未来の方が大事)」、最後まで「人生の可能性をなるべく高く見積もる」という態度だ。これまた書けば簡単に思えるが、最期まで実践するのは容易ではない。しかも文章の根底にユーモアがある。見事だと思う。

実は一度だけ、SNSを通じて個人的にやりとりをさせていただいたことがあります。原田芳雄さんの遺作になった『大鹿村騒動記』という映画について、私が書いたコメントを「ブログに引用させていただけますか」と連絡をいただいた。その文面もジェントルでスマートだったことを思い出す。信頼の置ける書き手がいなくなるのはとても寂しい。ご冥福をお祈りいたします。

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