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夢の終わり

いったいどれだけの人が、夢を叶えることができるのでしょうか。

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2020年。世界中がコロナウイルスの感染拡大で混沌としたあの1年。私も御多分に洩れず、その濁流に飲み込まれていました。日本に全てを置いて意気揚々と乗り込むも、2ヶ月目にロックダウン。結局その年はサッカーができませんでした。
迎えた2021年。スペイン5部リーグでキャリアが始まり、全18試合にフルタイム出場。そして目標としていた、カテゴリー昇格も達成できました。一度でも昇格できなければ辞めると決めていたので、何とかサッカー人生が終わらずに済みました。

そして、2021−22シーズン。全32試合にフル出場し、チーム目標であった残留も達成できました。特にこの年は、今までのサッカー人生の中で最も成長できた1年でした。ビルドアップの際の立ち位置と、ボールの運び方が改善されたことで、劇的にサッカーがしやすくなりました。技術レベルが上達しているわけではないのに、周りから見たら上手くなっているというところにスポーツの醍醐味や奥ゆかしさをひしひしと実感していました。ディフェンスにおいては、ボールとの接続が生まれる前段階での守備に磨きがかかり、これもまた快感でした。走りたい方向に走れない。視界から逃れたいのに常にマークされる。そんな嫌な印象を与え続けられているという感覚が、自分のサッカー観を拡げてくれました。今まで走れなかった速さで走り、跳べなかった高さを跳べるようになり、身体的な充実度も増していました。


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さて、この度竹本将太はサッカー選手を引退します。

「もったいない」「まだ若いのに」そんな言葉をたくさん頂戴しましたが、それでも私は、サッカー選手を引退します。
理由は至ってシンプルで、自分の掲げていた目標を期限までに達成できなかったからです。
スペインに渡るタイミングで、2025年にCLに出るとして、2022−23シーズンにはスペイン3部に昇格すると決めていました。けれど、それを今回達成できなかったということが、引退の決め手となります。

こう文字にすると、ひどく冷静に映りますが、実情は随分と異なります。
スペインでの就労ビザの取得が困難になる点、検討していた東欧1部リーグへの移籍がロシア・ウクライナの戦争で破断した点から、目標達成がかなり難しくなりました。そこで、昨シーズン終了後に帰国した際、Jで2クラブ練習参加をしました。その間にスペインの同カテゴリーの上位チームからオファーもいただきましたが、ビザ無しではどうしようもないので断りました。本来、自分の中で決めていた目標は達成できていないので、その段階で辞めるはずでした。
でもどうしても、引退を決断できませんでした。20年という歳月はあまりに重すぎました。日本の2部なら、スペインの3部相当だろうというこじつけをして、練習参加を続行しました。しかし、色々あって話は纏まらず、3ヶ月もの練習参加期間が無に帰すこととなりました。それでも、どうしても諦められなくて、来季2部に昇格しそうな3部のクラブに練習参加もいきました。こちらも結局オファーに至らなかったのです。

あなたは、夢が終わる瞬間を味わったことがあるでしょうか。
私は今回が初めてでした。
2022年8月8日、獲得に至らなかった旨を代理人から聞いて、そこからしばらく記憶はありません。まさに空虚です。蝉のつん裂くような声だけが、やけに耳に残っていました。

飛行機に乗って帰宅してからは、「ダメだったわ」なんて話をして、意外と冷静な自分に、覚悟していた分ダメージも少ないのかな、なんて思っていました。
夕食をとり、風呂に入り、いつものようにストレッチを始めました。その瞬間、急に嗚咽するほど涙が出てきて、止まりませんでした。「もうストレッチもする必要ないんだ。」そう思ったらスイッチが入ったようです。どれぐらい泣いたでしょうか。一瞬だった気もするし、随分と長い時間涙を流していた気もします。

代理人からは、3部で興味を持ってくれているチームが他にもあるからと言われました。さらに下のカテゴリーのクラブからもいくつかDMなどで打診がありました。
でも、引退すると決めました。可能性の中に生きている限り、いつまでもやれてしまうから。そして、少しずつ妥協して、理想としていたはずのサッカー選手像からかけ離れていく自分が怖かったからです。

この文章を見て、あなたはどう思うでしょうか。
5年後にチャンピオンズリーグに出るなんて大風呂敷を拡げて、呆気なく散る。サッカー選手としての私に期待してくださっていた方々は落胆したでしょう。私も私に落胆しています。20年サッカーをして、何の結果も残せませんでしたから。

私のこの挑戦は、紛れもなく失敗に終わりました。
すごくダサい話をしますが、それでも私は、私のサッカー人生に誇りを持っています。
妥協なく、やれることは全てやり切りました。結果は散々でしたが、歩んだ道程には自信があります。
こういった言葉は、勝者が語ってこそ格好良いということは重々承知です。それでも私の20年のために、頑張ったことだけは認めてあげようと思います。

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私は、サッカー選手という肩書きを失います。果たして何が残るのでしょう。

「たった一度の人生をどう生きるか」

この言葉を問い続けながら、没頭し、熱中し、夢中になる人生を生きて、最期は清々しい気持ちで死にたいと思います。


次のキャリアについては、またの機会に譲ります。

最後になりますが、サッカー選手としての竹本将太を応援してくださった全ての人に感謝します。
本当にありがとうございました。

2022.10.2 竹本将太

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