見出し画像

「初夏のレモンサワー対決」─バーテンダーの視(め)

 渋谷だったか三軒茶屋だったか、はたまた用賀まで戻ったか。久しぶりに立ち飲み屋をはしご酒した時に、『最強レモンサワー』というメニューに出会った。

 この最強なレモンサワーはそのお店のウリらしく、目に入る限りの人達が皆頼んでいて、僕も3杯ほどいただいた。

 あまり居酒屋文化には明るくない方なので一般的な飲み物だったらとても恥ずかしいのだが、氷の代わりにジョッキには冷凍されたレモンのシャフトが山程入っていて、そこに冷やした焼酎とソーダをおもむろに注ぎ完成する様に驚いた。

 おかわりの際には空いたグラスに焼酎とソーダを継ぎ足す『ホッピーセット』なスタイルで、レモンが冷えているうちなら何度でも最強な味が楽しめるそうだ。なんだかとても新鮮。

「バーテンダーさんはプライベートでもカクテルやウイスキーしか飲まなそう。」

 と、最近お客様に言われ、「なんだかこの質問も新鮮になってきたなぁ」と思ったいた次第で、プロのソムリエでもワインしか飲まないわけではないように、郷に入っては郷に従え、BARと居酒屋ではそこに合ったお酒を楽しんでおります。

 基本的にオーセンティックバーでは日本酒や焼酎の用意がないので、レモンサワーやお茶割りといった飲み物をだす事はできない。似たようなテイストでさっぱり目といえば『ジン・フィズ』だろう。

 バーテンダー駆け出しの頃にこのカクテルをひたすら作らされていた。ジン、レモンジュース、砂糖、ソーダと材料は多くないものの、色々な本に”カクテルメイキングの基礎”として取り上げられているので誰しもが1日に何杯も練習する事になる。実際に作ってみると味のバランスが非常に難しい。

 当時の先輩が”お手本”で作ってくれたそれはレモンサワーというよりもレモンスカッシュのようなゴクゴクいけてしまうような味で感動したのを覚えている。

 あまり奇をてらったアプローチの出来ないカクテルだからこそ、真面目にコツコツ練習しているのか、お酒に真剣に向き合っているのかが出てしまうそうだ。どの業界にもこういった指針になる仕事は存在するのだと思う。

 最初に、レモンジュースに合った量の砂糖を溶かし込む。生の果汁は毎日のように味が違うので微調整する必要がある。

 次に、シェイクはショートカクテルの時よりは短く、混ぜ切ったと感じたらすぐに止める。

 ソーダで満たす時は、多すぎても薄くて美味しくないし、少なすぎるとアルコール感が強くでてしまい飲みづらい。

 なんともまぁBARのレモンサワーは手間のかかる事……。駆けつけ一杯として頼まれる際はある程度のお時間がかかりますので、以後お見知りおきを……。

 これからもっと暑くなる。

 皆さんも居酒屋では最強レモンサワー、BARではジン・フィズで、お仕事上がりにスカッとしてみてはいかがでしょう?


『ジン・フィズ』

タンカレーNo.10 50ml
レモンジュース 12ml
フルーツシュガー 1tsp前後
ソーダ FullUp

材料をシェイクし、タンブラーへ注いだ後ソーダーで満たす。レモンピールを落とす。

『バーテンダーの視(め)』はお酒や料理を題材にバーテンダーとして生きる自分の価値観を記したく連載を開始しました。 書籍化を目標にエッセイを書き続けていきますのでよろしくお願いします。