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ボードゲーム「イカロスの太陽」デザイナーズノート

はじめに自己紹介

noteでははじめましてという事で、本題に入る前に筆者の事について軽く自己紹介を。
私はNSGクリエイトという個人サークルでアナログゲームのゲームデザインをしていて、活動開始は2016年の秋。代表作としては「HYAKKATEN」「料理人はどこへ消えた?」「突撃!今夜の晩ごはん」等を作ってきました。
※各タイトルのリンクはゲームマーケットのゲーム紹介ページに飛びます。

普段はデジタルゲームの開発に携わりながら、趣味でアナログゲームを制作しているような感じで創作活動を行っています。

今回は、ゲームマーケット2022秋向けに制作した「イカロスの太陽」の制作過程を、noteという皆さんの目に触れる形で文書化することで、アナログゲーム制作時の自分の思考を改めて確認すると共に、他のアナログゲーム製作者がこれを創作活動の助けになれれば幸いです。

イカロスの太陽について

イカロスの太陽は、スチームパンクモチーフのデッキマネジメント+アクションプロットのゲームで、プレイヤーは飛空艇に乗って彼方にあるイカロスの太陽を目指すゲームとなっています。
イカロスの太陽紹介ページ】【BOOTH

イカロスの太陽のパッケージ

今回、イカロスの太陽の制作雑記をまとめようと思ったのは、来年のゲームマーケット2023秋に向けて、この作品をより面白くするための第2版(という名の拡張版)を作るにあたり、面白さの分析を作者自身が再確認したいという意味合いも込められていますので、生暖かく見守っていただければと思います。

本題の前に… 私の作成スタンス

さて、本題に入る前に。
ゲーム製作者の中でも様々な制作スタンスがあるかと思うのでそれだけは先にまとめさせていただきます。

・ボドゲで最も重視するのは、行為が楽しいと感じる部分を用意する事。
 →イカロスの太陽では、毎ラウンドどんどんカードをめくっていく部分。
  「めくるのが楽しい!」
・目指す販売数はタイトル毎に設定
 →イカロスの太陽はゲムマで100個ぐらい
・ボドゲだけで食べていくつもりはない
 →創作活動を続けられるぐらいの範疇で少し利益が出ればいいなぁ。

■冒険者村を作ろう!

始まりは、2021秋

イカロスの太陽の始まりは遡る事約1年前、ゲームマーケット2021秋の頃。ちょっとした企画の為に作ったのが「冒険者村を作ろう!」です。
なお、自分は初期の仮タイトルを開発名としてそのまま完成までもっていくので、今でもイカロスの太陽の開発名は「冒険者村を作ろう」です。

ざっくりとこんなゲーム

ひとまず当時のドキュメントを掘り起こしてみました。
長いので読み飛ばしていただいても構いません。

【ゲーム背景・ストーリー】
あなたは、とある村の村長です。近くにモンスターが出るダンジョンがあり、そこに訪れる冒険者の拠点の冒険者村としてそこそこの人気がありました。
ですが、最近ダンジョンにいるモンスターもすっかり数が減ってしまい、その人気に陰りが見え始めました。このままでは、村が寂れてしまう。
そう危惧したあなたは、ダンジョンにいるモンスターと交渉をします。

「ダンジョンの整備や強いモンスターの斡旋をする代わりに、冒険者の相手をしてくれないか」

ダンジョンが発展すれば村にもお金が入り、そのお金で村の設備を投資することで、冒険者が強いモンスターを討伐できるようになり、そのおかげでダンジョンとしての名声が上がり、より強いモンスターを呼び込み発展する。
そんな、ダンジョンビジネスを立ち上げようとしたのです。

近くの同じような村も同じような事を考えているようです。彼らに先を越されないようにどんどん村を発展させていきましょう!

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【ゲームジャンル】
アクションプロット・デッキ構築(オリジナル作品)

【このゲームの面白さのポイント】
 ・マッチポンプ的なストーリーでうまく自分が儲けた感を感じられる。
 ・うまく村とダンジョンを発展できたら、収入や名声が大量に獲得できるリターン感を感じられる。

【ゲーム概要】
・強いモンスターあるところ、冒険者に人気あり!うまくダンジョンを整備して良いダンジョンとしての名声を稼ごう!
・冒険者がダンジョン探索で得た財宝は、新たな村の資金源!
・お金を使って村の施設を強化!温泉宿や、強力な武器・防具を開発しよう!
・評判の良いダンジョンがあれば、新たなモンスターを呼び込むことができる。新たなモンスターを斡旋して、さらに良いダンジョンに発展させよう!

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【ゲームの流れ】
プレイヤーは以下の物を持ちます。
・デッキ
  →ダンジョンを表しており、モンスターや罠、アイテム等のカードで構成されています。
・村の施設
  →宿(冒険者のスタミナの強化)、武具屋(冒険者の攻撃力・防御力の強化)、薬屋(ダンジョンにアイテムを追加)
・冒険者
  →攻撃力・防御力・スタミナ・HP

全員共通の場に以下を持ちます。
・アクション
 →デッキの上から2枚を見て、うち1枚を下に入れる等、デッキを操作したりして有利にするなど。様々な効果を用意。
 →毎ラウンド追加(追加されるアクションはランダム予定)
  
1.プレイヤーは毎ラウンド場にあるアクションからやりたいアクションを選びます。
  →アクション毎に、行える人数を制限
  →アクションの中に、村の施設を強化する項目がある
  →アクション毎に設定された「お金」が必要。
2.各プレイヤーが選んだアクションを行う
3.冒険者が自分のダンジョンを探索
  →デッキを上からめくっていく。1枚めくるごとにスタミナ-1。
  →モンスターが出たら戦闘。
  ※冒険者のスタミナが0orHPが0orデッキが無くなると探索終了
4.討伐できたモンスターや探索で得た財宝等を元に、「名声点」「お金」を獲得
5.このラウンドで得た名声点を使って、モンスターカードをデッキに追加
  →1に戻る。

上記を繰り返し、規定ターン終了でゲーム終了。
デッキに含まれるカードに設定された勝利点の合計が一番多いプレイヤーの勝利。

※ゲームに含まれる数値部分や効果など詳細部分はこれから検討予定です。

要点をまとめると、以下のような感じです。

  • プレイヤーは冒険者村の村長。ダンジョン近くの冒険者村を発展させて、勝利点(人気)を得る事が目的。

  • 各プレイヤーはデッキを持っていて、デッキはダンジョンを表す。

  • スタミナがあればどんどんデッキをめくっていくことができる。

  • デッキをめくる事でプレイヤーはリソースとして、名声点とお金を獲得する。

  • 名声点→デッキに加えるカードを獲得するのに必要

  • お金→村の設備を強化するために必要

イカロスの太陽と比較するとこんな感じです。

  • プレイヤーは飛空艇に乗って探検する探究者。彼方にある「イカロスの太陽」を目指して探検し、勝利点(名声)を得ることが目的。

  • 各プレイヤーはデッキを持っていて、デッキはイカロスの太陽までの航路を表す。

  • 燃料があればどんどんデッキをめくっていくことができる。

  • デッキをめくる事でプレイヤーはリソースとして、ギア(お金)を獲得する。

  • ギア→デッキに加えるカードや、飛空艇のガジェットを獲得するために必要

ところどころ違うところはあるものの大まかな原型は冒険者村を作ろう!が土台にあってイカロスの太陽が出来上がったと思います。

【コンセプト】デッキをめくる事に意味を持たせたい

そもそも、冒険者村を作ろうの遊びの仕組みをデッキめくりにしたかったのは、世の中にある大半のデッキ構築系のゲームがシステマチックにデッキをめくっていると感じたからです。
例えば、デッキ構築の金字塔である「ドミニオン」はカードを引く効果があるカードをアクションするとデッキから追加でカードを引く事ができます。
例:「研究所」「鍛冶屋」「村」等

が、どうしてカードを引く事ができるのか、直感的ではない(と自分は思っています)
※注:そもそもドミニオンの面白さはカードを引くというだけではないことはご注意ください。

そこで、冒険者村を作ろうでは、デッキをダンジョンに見立てることで、ダンジョンを進む=デッキをめくるという方式を採用しました。
ちょうど、不思議のダンジョン(ローグライクゲーム)のように、毎回ダンジョンの中身が変わるというのも馴染みがありますし、なにより次にどんなカードが来るのかがわからないダンジョン探索のドキドキ感が味わえるかと思ったのです。

【問題点】パラメータが多すぎる・カードの種類が多すぎる

さて、ゲームの素案が固まったところで、モックアップの作成に取り掛かろうとしたのですが、作っている間に問題点が見えてきました。

  • ゲームを構成するパラメータが多い

  • 作成のために必要なカードの種類(イラスト)が多い

パラメータは、プレイヤーに「お金」「名声点」「勝利点」、冒険者に「HP」「スタミナ」「攻撃力」「防御力」、ダンジョンのモンスターに「HP」「攻撃力」「防御力」と、とても多くのパラメータを管理しなければなりません。今になって考えてみればもうちょっと削れそうな気もしますが、それでも多くのパラメータが必要になってしまいます。
パラメータが多いとそれだけでプレイヤーは混乱してしまいますし、それぞれのパラメータを成長させるゲームの特性上、どうしてもプレイ時間は大幅に伸びてしまうはず。(=やることが多い!!というやつです)

もっと致命的なのは、カードのイラストを多く用意しないといけないという点です。ダンジョンにいるモンスターの種類が少ないと、ダンジョンとしてはなんか味気がなくなってしまい、わくわく感が半減してしまいます。
とは言え、無尽蔵に予算があるわけでもないので、極力種類は押さえたい所… この点は解決するのが難しいので早くも暗礁に乗り上げました。
※「自分がイラストを描く」「宝くじを当てる」みたいな現実的ではない解決策はありますが…

■イカロスの太陽

解決の糸口は「スチームパンク」

そんなこんなで制作にあたり問題があった、冒険者村を作ろうですがある日Twitterで見かけたイラストレーターさんの絵を見たことが転機となりました。
その方は、スチームパンク系の絵柄を得意とされていて、この方の絵ならスチームパンクの世界を構築するのに最適だと感じました。
と、同時にスチームパンクを題材にした場合先の問題点がいくつか解決できる事にも気づきました。

【解決1】パラメーターを少なくできた

スチームパンクの世界観とすることで、飛空艇で目的地を目指すというゲームに変わったので、パラメーターを飛空艇を飛ばすための「燃料」と様々なものを購入する「お金(ギア)」に絞る事が出来ました。
※初期は、これに島の購入リソースとして「発見力」もありましたが、のちに不要として「お金」に統一しました。

【解決2】イラストカードの種類を少なくできた

スチームパンクの世界観とすることで、ダンジョンのように多くの種類のモンスターを用意する必要がなくなり、各リソースを担当する島を用意するだけでよくなったので、必要なイラスト数を削減することができました。

燃料:燃料が採掘できる炭鉱の島
お金:この世界で使用されている通貨が埋蔵されている遺跡の島
変わり種:ギャンブル性を持たせるために、敵の飛空艇と戦う要素
点数:所持していると点数になるがゲーム中は邪魔な島
※初期は、各段階で3段階ほど考えていましたが、点数以外は1種類に削減しました。

選択の幅表現「ガジェットシステム」&インフレ表現の「技術進歩システム」

イラストカードの種類を少なくする事の弊害として起こるのは、
選択の幅が少なくなってしまうという問題点があります。
ドミニオンでも、サプライとして10種類の択が用意されていて今回はどれを選ぼうという所が面白さとしてあるのですが、デッキに入れるカードの種類が少ないイカロスの太陽では択を設けるのが難しいわけです。
そこで、考えたのが「ガジェットシステム」です。

ガジェットカード「側部連装砲」

ガジェットにはイラストは一切用いず、効果のみを記載することで少ない制作費で択の代わりにできるような仕組みとなっています。
また、各ガジェットはゲームの進行に応じて、能力が徐々に強くなるようにできるようにすることで、「ゲームの前半は強い」とか「後半に強い」などの特徴も生み出すことができます。
また、イラストを用いないことで、カードの追加をしやすくなっているので拡張性が高いのも魅力です。
※このゲームの途中でカードの強さが変わるというのは、ホビージャパンさんから出ている「ラストクロニクル」というTCGを参考にしています。

「イカロスの太陽」をどうするのか

このイカロスの太陽をどうするのかというのは、ゲームのことではなくイカロスの太陽という存在をどうやってゲームに落とし込むのかの意味です。

イカロスの太陽は言ってしまうと、ラピュタに登場する竜の巣をイメージしていて、迂闊に近づくと飛空艇は墜落してしまうという設定としていました。
そういう設定という事もあり、ゲームに落とし込む時に初期は「デッキを引き切ってオーバーランしてしまうと、ペナルティー」という形で表現していました。
ですが、テストプレイを重ねていると、このペナルティーが気になり気持ちよくデッキをめくれないという声があったため、「デッキを引き切った場合は、イカロスの太陽の傍で調査をしたので政府からご褒美がもらえる」という形にしました。

ゲームの途中で達成できて気持ちいい!という感覚を味わえるようになったので、設定の中で無理のない範囲でルールを変更するというのも重要です。
※まあ、それが無茶なら設定の方をいじるのも手です。

■イカロスの太陽 拡張に向けて

製品版のイカロスの太陽を出しましたがいくつかゲームのバランス的に問題点が出てきたので、現時点で考えている解決策と合わせてまとめ書きして今回のnoteは終了にしたいと思います。
内容的にイカロスの太陽が手元にないと分かりにくいのはご了承ください。

1.雲海と大嵐のデメリットがきつく、対処できなかった場合に楽しくない

雲海は燃料2個、大嵐は燃料3個を消費してしまうカードですが、毎ラウンド補充される燃料は3の為デッキの序盤にこれらのカードが来てしまうと非常に厳しいことになります。ガジェットの効果で捨て札にするという解決方法をゲームとしては用意していましたが、それができないと非常につらい事になってしまいます。

【解決策】
 ・雲海を燃料1個消費、大嵐を燃料2個消費に変更
  →大嵐はゲーム中にプレイ人数分しかないためちょっとした障害として表現するため2個とします。雲海は、蒼い空と同じ効果ですが別名称のカードとします。
 ・ゲーム進行に応じて、毎ラウンド補充される燃料を増やす
  →TEC2で4個、TEC3で5個補充  

2.燃料が正義すぎる

イカロスの太陽のゲームサイクルの仕組みは、
たくさんデッキをめくる→お金を稼げる→稼いだお金でデッキを強化→強化されたデッキならよりたくさんデッキをめくれる
となっています。
しかし、燃料を得る手段がノーコストで行えるため、燃料をかき集める事が正義となりすぎているため、それ以外の戦術が相対的に弱くなってしまっている。

【解決策】
・燃料を獲得できる島で燃料を獲得するためにはお金を払う必要があるように。
 →暫定的に、レートは3(お金):2(燃料)
・燃料以外の手段の強化
 →新カードとして、探検途中でデッキを捨て札にできるカードの追加

3.お金がインフレしすぎてなんでもできる

デッキをガンガン回せると、1ラウンドで得られるお金の量が多くなりすぎて、うまくいかなかった時に得られるお金の量と差が激しくなってしまうので、巻き返しができなくなってしまう。

【解決策】
・うまくいかず凹んでしまったプレイヤー向けに、オーパーツカードの効果を変更。永続的にしてしまうと、強力になりすぎるので一回切りの使い切りとする。
・全体的にお金の獲得方法をデフレ気味に変更。
 →1ラウンドですごくうまくいって10金ぐらいが理想。

最後に

こんな感じで、来年秋に向けてイカロスの太陽を調整しようと考えているのでテストプレイなどにご協力いただけると嬉しいです。
プレイした感想などもいただけると大変喜びます。

では、拙い文章ではありましたが、ボードゲームデザイナーの助けになったのならこのnoteにも価値があったのかなと思います。
これからもよろしくお願いします!

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