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木造建築の語られ方|昭和期日本の精神史 あとがき

noteのマガジン「木造建築の語られ方」ほかに書き散らしていた文章たちを再編成して目次化してみました。佐野利器にはじまり三澤千代治におわる木造建築のお話しを書くという目標に向かってスケッチしてみた架空書籍。

以下はその「あとがき」になります。

あとがき

時間が経つのは早い。木造住宅メーカーの営業職を辞めてから、もうすぐ15年になります。大学を卒業してから6年半という時間を「家を売る仕事」に従事させてもらう機会を得たので、もう辞めてからの歳月のほうが長いことになります。

とはいえ、20代というお多感な時期にあたる住宅営業の時間は、自分が自覚している以上に自身のものの考え方や振る舞いへ影響しているのだと思います。そして、売れない営業マンという意のままにならない時間だったからこそ、自分が売る木造住宅についての「そもそも」にあれこれ考えを巡らすキッカケにもなりました。

そんな時間のなかで得た数々の問い。それは大別して「木造建築」についてと「住宅産業」についてにわかれます。今回、「木造建築の語られ方」と題してまとめたこの本は、ちょうど前者の問いにあたります(後者の問いは「住宅産業論ノート」と題してまとめられる予定)。

木造建築とはいったいぜんたい何なのか。問いを立てるのは、答えを求めてというより、その問いをキッカケに「考える」のが目的です。

それゆえ、「木造建築」についての「語られ方」の類型をあれこれ並べてみることになるべく徹するよう心懸けました。理念と現実のあいだをつなげる「語られ方」を丹念に読むこと。言い方を変えると「自分の言葉で考えない」ようにしたかった。つまりは、「考える」こととは「他者の言葉で考える」のだということ。

哲学者の芦田宏直氏が福沢諭吉『独立のすすめ』感想文コンクールの審査員をつとめた際の講評が著書『努力する人間になってはいけない』(ロゼッタストーン、2013)に収録されています。そこで芦田氏は次のように言っています。

すぐに、「自分の」評価を下し、すぐに「自分の」意見を述べてしまう。「自分の」意見を述べる前に、福沢諭吉自身が『学問のすすめ』の中で何を言おうとしているのかの読み込みが足りない。そもそも「自分の」意見と思えるものも、先人の形成した文化の中で培われてきたものだ。テキストを読むことと「自分の」意見を述べることとは、特に異なる作業ではないことを理解する必要がある。
(芦田宏直『努力する人間になってはいけない』2013)

すぐに自分の意見を述べるなとか、テキストを読むことと「自分の」意見を述べることとは異なる作業ではないとか。芦田氏の文章は常にとっさには共感・賛同させてくれないかたちで飛び込んできます。まさにテキストを読むことが求められる体験となります。さらに芦田氏は言います。

〈テキストを読む〉ことは、賛成、反対の以前に、なぜそういうことを言うのか、という問いが先立たねばならない。これは、死者の声を拾うような孤独な作業だ。しかし、その声こそ騒々しく、どんな現在の対話よりも活発で質の高いものである。それがわかることが〈テキストを読む〉ということだ。
(芦田宏直『努力する人間になってはいけない』2013)

芦田氏が推奨するようなテキストの読みを、今回自分が実践できているとは到底思えないけれども、少なくとも自分の意見を、自分の賛否を、自分の言葉で早急に述べることをなるべく控えるようにしました。そして、木造建築をめぐる「語られ方」のそれぞれについて、「なぜそういうことを言うのか」という問いを掘り下げるように心懸けました。

「自分の」言葉で考えないため=よく考えるために。

木造住宅メーカーの営業マンだったからこそ、木造建築についての「経験」があります。その「経験」は容易に考えることを邪魔します。油断するとすぐに思考が自動化しはじめ、そして、共感を得やすい落としどころに着地させたがる。それをなるべく避けるための方法が「語られ方」の類型をあれこれ並べるという作業なのです。場合によっては、自分の信条や好みとは真逆の着地点へと思考を誘うこともあるでしょう。

こうした姿勢と真逆に位置するのが自己啓発書のロジックでしょう。社会学者の牧野智和氏は著書のなかで自己啓発書を次のように説明しています。

読者にとっても最も馴染みのある、最大公約数的な価値観を前提として、自己の啓発に誘おうとする書籍群が自己啓発書であるというのである。(中略)自己啓発書とは、より多くの人々が魅了されるような願望、より多く抱かれるような不安を掲げて人々を惹きつけ、それらへの処方箋を提出する書籍群なのだ、と。
(牧野智和『日常に侵入する自己啓発』2015)

木造建築のことがスッキリ分かるわけでもなく、だよね~と納得できるわけでもない。かといって、基礎知識が習得できるわけでもなく、何かにすぐ応用できるわけでもない。そんなダラダラとした木造建築をめぐる「語られ方」の読解作業は、建築の可能性をさぐるための大切な足場となるのでは中廊下。そう思っての自分なりの思考メモが本書『木造建築の語られ方』となっています。

(以下、初出誌紹介、謝辞コーナー略)


2018年12月30日 たけうち

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