見出し画像

家づくり〈あるある〉カルタ【1】遊んで身につく共通言語

〈あるある〉で家づくりの共通言語を育む?

家づくりは一生に一度か二度、いやいや、一度あるかないかの買い物。しかもお値段も個人の買い物としては最高額。にもかかわらず「家は三度建てないと満足できない」なんていう言葉もあったりして、家づくりの難しさがうかがわれます。

そんなふうに思っていたら、ちょうど漫画家の尚桜子NAOKOさんが連載している「わが家は今日も建築中!」に、恒例の「家づくりあるある」が登場しました。

マイホームを新築した際、基礎工事が終わった現場を見たとき「あまりの狭さに絶望する」というもの。あ~、あるある。お客さまの10人中8人はそう言う(笑)。後日それは杞憂とわかるわけですが、一生に一度の経験ゆえに、その時は不安に苛まれたはず。

間取りのことも、資金のことも、構造や設備のことも、とかく分かりづらい。だから近年では、デフレ慣れ傾向も影響して、住宅の「ファスト化」なんていう状況も生まれつつあるそうです。

住宅を手に入れようとする人が、自分の生活を振り返って、自分自身に相応しい住宅のあり方を(そもそも持ち家を取得するべきなのかどうかさえ含めて)構想する。そんないわば「家づくりの共通言語」というか「プランニングリテラシー」みたいなものを持って、ハウスメーカーや工務店、建築家らと共に家づくりを進めていけるのでは中廊下。そんなふうに思います。

プランニングリテラシーが最も求められる場面といえば「間取りの検討」。なぜって、間取りは住要求から敷地条件、資金計画までが総合的に反映されているばかりでなく、専門家ではない住宅購入者にとっても馴染み深いものだと考えられるから。

家族や専門家との建設的な対話を進め、間取りを多角的な視野から検討できたらすばらしい。それと同時に実は自分のなかでの自分との対話にあたっても、言語を持っていることで円滑な対話の時間がえられるはずです。

そして着工後も、工事の過程で生じるトラブルや勘違いに対しても、「あ、これはあの〈あるある〉な状況だなぁ」と思って冷静に対処できる余裕が生まれたら、よりよい関係のもとに家づくりが進められるだろうなぁ。

とはいえ、住宅の間取りに関連する図書・雑誌はたくさんある(いや、ありすぎる)けれども、それらの大半は、間取りの制作手順や事例、基礎知識について概説するものがほとんどで、多角的な視点で家づくりを検討したり、不安や課題を解決したりする視野を育む情報としてはなんとも不充分。

そんなこんなで、家づくりに臨む人々に、間取りの検討から工事中、そして入居後に至るいろんな場面で気づきを与える支援ツールを開発してはどうでしょう、と思った次第。ツールはカルタの形式を採り、「家づくり〈あるある〉カルタ」と仮称する。

 かるたをする女性達(1900年頃)

たとえば、「か カーテンの色、選んだ季節に左右されがち」だとか「り リビング広くとったのに茶の間にみんな居がち」「こ 小屋裏空間みると無駄に収納にしたくなりがち」みたいな。

これがあれば、住宅購入者が自らの生活を振り返り、自身に相応しい住宅のあり方を構想し、そして、工事中の予想外・想定外な事態にも不必要に動じず、家づくりに向き合える。そんな世界が期待できそうです。

〈あるある〉カルタのつくり方

なぜ、あえてカルタにするのか。その背景として次の4つの側面を挙げてみたい。

①レイザーラモンRG「あるある」

住宅購入者が間取り検討に際して何らかの気づきを得られるような仕組みを考えた場合、いわゆる「あるあるネタ」が想起されます。「「あるある」と言えばRG」と称される芸人レイザーラモンRGは、主著『洋楽あるある』(2013)のなかで「そのアーティストの「あるある」を見て、何かを思い出すこと」が「あるある」の重要な効果であると指摘しています。

つまりは、「あるある」を介して何らかの知識や教訓が連想されたり、状況や事態から「あるある」を想起したりする可能性が見出されるのです。しかも、RGの「万物にあるあるは存在する」との発言からは、家づくりや間取り検討に際しても、「あるある」が有効なアプローチ手法であることも了解されます。

なお、「あるある」の文末には「~しがち」をつけることがルールとして定められているそうです(TVでのネタはそうなっていない場合も多々みられるけれども)。

②クリストファー・アレグザンダー「パターン・ランゲージ」

専門家ではなく、一般の住宅購入者が家づくりのプロセスへ参加できる仕組みを考えるため、建築家クリストファー・アレグザンダーが提唱した知識記述法「パターン・ランゲージ」に着目したい。

アレグザンダーは、建物や街の形態に繰り返し現れる法則性を「パターン」と名付け、それを「言語(ランゲージ)」として記述・共有する方法を考案しました。街や建物のデザインについての共通言語をつくることで誰もがデザインのプロセスに参加できるようにしたことは、住宅購入者のプランニングリテラシーの育成をめざす「あるあるカルタ」的にも重要な示唆を与えてくれます。

③吉阪隆正「不連続統一体」

間取り検討に際して多角的な気づきを与えるためには、複数の視点やチェック項目を示す必要が生じます。でも、それらが多様で多角的であることからバラバラになってしまっては、支援ツールの性格もまた散漫になって、魅力が低減してしまいそう。そんな問題を解決する糸口として、建築家・吉阪隆正による「不連続統一体」に着目したいな。

「木々は夫々の法則に従ってとっているのに、全体としての森も又一つの性格を形づくって統一されている」という「不連続統一体」の思想は、個々の〈あるある〉が住宅設計への大きな気づきへとつながる回路の可能性を示唆します。

④「象設計集団のいろはカルタ」

そんな吉阪隆正の門下生たちで結成された象設計集団が33年間に手がけた作品の集大成として位置づけられる書籍が『空間に恋して―象設計集団のいろはカルタ』。その内容は建築を創造する日々や、その過程で生みだされた言葉などが詰め込まれています。そして、そうしたある種の雑多な情報が「いろはカルタ」として提示されています。

象設計集団が自らの作品集を「いろはカルタ」として編集した背景には、「仮名一字ずつを頭にして、心にしみることわざや風刺が書かれた読み札と、ヒント絵が描かれた取り札を一組」にする「いろはカルタ」の魅力が踏まえられているのだそう。こうした姿勢は、専門家ではなく、一般の住宅購入者を対象として間取り検討に気づきを与えたい「あるあるカルタ」の主旨ともバッチリな気がしてきました。

さて、冗談はともかく、「あるあるカルタ」がどんなものになりそうか。さらに妄想を続けてみましす。

そもそもカルタって

カルタとは、主として正月に遊ぶカードゲームとして知られます。なかでも「いろはカルタ」は、「色は匂へど散りぬるを、我が世誰ぞ常ならむ、有為の奥山今日越えて、浅き夢見し酔ひもせず」(涅槃経)という仏教精神を和文で表現したものとされ、「いろは歌」47文字と「京」を合わせた48文字を、句の頭において作った短歌のカルタなのだそう。ほぉ。そうなのか。

カルタは「文字札」と「絵札」で構成されます。「文字札」は取り札の絵の内容を示す短文が書かれていて、読み手がそれを読み上げます。絵札は読み札の内容を描いた絵と、読み札の短文の頭文字がひらがなで記されています。読み札の読み上げに合わせ、取り手が手を出して札を取る。全ての読み札、取り札がなくなるまで繰り返し、より多くの取り札を取った者が勝者となるゲームです。


〈あるある〉カルタをつくる/カルタであそぶ

住宅購入者に家づくりに際しての気づきを与える「家づくり〈あるある〉カルタ」。その開発へ向けては、参考図書の収集・読解を進めることになります。具体的には、家づくり・住宅購入に関連する図書や『月刊ハウジング』などの住宅雑誌を通覧しつつ、主として成功・失敗事例などの記載箇所を重点的に読み込んで、〈あるある〉の収集に励むことになるでしょう。

リストアップした〈あるある〉の種をもとに、最も味わい深いものを選定。魅力に乏しい〈あるある〉は情け容赦なく捨てることになります。「気づき」につながる〈あるある〉には、それなりの冴えが必要だからです。

全47枚から構成されるカルタは、「文字札」と「絵札」で構成されますが、それと併せて小冊子「家づくり〈あるある〉読本」が附属するといいなぁ。このあたりは、井庭崇+井庭研究室『プレゼンテーション・パターン』をガッツリと真似してみて、小冊子は家づくりにおいて問題になりがちな状況だとか、それをうまく解消してくれるようなコツをまとめた内容で構成してみる。

「家づくり〈あるある〉カルタ」の活用方法は、『プレゼンテーション・パターン』を真似て、次の3つの側面を想定しています。

①家づくりのコツを知る

「家づくり〈あるある〉カルタ」および同読本には、多様な家づくりのコツが書かれているため、最初から順に読んでいくことで、読み物のように楽しむこともできます。小冊子前半の〈あるある〉ネタの概要を読み進め、気になったものがあれば、後半の解説を読んでみることができます。通読することで、家づくりのコツの全体像がつかめるはず。

②いまの自分に必要なコツを探す

「家づくり〈あるある〉カルタ」では、「家を建てることになったとき」や「今まさに住宅の間取りを検討しているとき」、「間取り検討で行き詰まりを感じているとき」「目下、工事中で不安になったとき」など、そのコツを使う状況が明記されています。そのため、いまの自分の状況に応じ、必要な〈あるある〉を探し出すことができます。さらに、各〈あるある〉に記載された〈関連あるある〉をたどって、そのネタと組み合わせて実践することも可能。

③家づくりのコツについて話す

「家づくり〈あるある〉カルタ」および同読本は、家づくりのコツについての共通言語を提供します。そのため、自分のなかでネタを活かすだけでなく、ネタを家族との会話のなかでを使ったり、専門家との打合せで使ったりすることができます。家づくりのコツは、本来は、言語化が難しい経験則を含みますが、〈あるある〉トークを介して活発に対話することが可能となるのです。ホンマかいな。



参考文献

1)吉阪隆正『不連続統一体を:吉阪隆正集11』、勁草書房、1984
2)C・アレグザンダーほか『パタン・ランゲージ:環境設計の手引き』(平田翰那訳)、鹿島出版会、1984
3)象設計集団編『空間に恋して:象設計集団のいろはカルタ』、工作舎、2004
4)豊田佳隆ほか「まちなみ協議ツールとしての「まちなみカルタ」の開発」、日本建築学会技術報告集、N.26、pp.767-771、2007.12
5)井庭崇,井庭研究室『プレゼンテーション・パターン』、慶應義塾大学出版会、2013
6)レイザーラモンRG『レイザーラモンRGの洋楽あるある』、竹書房、2013

サポートは資料収集費用として、今後より良い記事を書くために大切に使わせていただきます。スキ、コメント、フォローがいただけることも日々の励みになっております。ありがとうございます。