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ルンバのiRobot社はいつまでロボット掃除機メーカーなのか?

前回はロボット掃除機「ルンバ」を通して、人とロボットの関係性を目の当たりにした記事を書きました。今回は、ルンバを作る会社とはどんな会社なのかを見てみたいと思います。(ロボット屋さんには知ってる内容が多いかもしれませんが、お許し下さい)

「ルンバ」を作っているのはアメリカの「iRobot」という会社です。基本はロボット掃除機の会社だと思って良いと思います。どのようにして売上1000億円を超える大きな会社になったのでしょうか。

創業期

iRobot社は、1990年にマサチューセッツ工科大学(MIT)のロボット研究者であったロドニー・ブルックスらによって創業されました。

ロドニー・ブルックスは、サブサンプション・アーキテクチャーという新しい人工知能を発明した有名な研究者で、iRobot社の後には新しい産業用ロボットを目指したRethink Robotics社を率いるなど研究者としてだけではなく、起業家としても活躍しています

最初から掃除ロボットの開発を行っていたわけではなく、元々は軍事用ロボットの開発をアメリカ国防省から受託するのが主な仕事でした。覚えてる方もいるかもしれませんが、2011年の東日本大震災による原発事故において、最初に原発内に投入されたロボットと報道され、原発内の観察タスクを実施したのがiRobot社の主要製品である「パックボット」でした。

「パックボット」自体は、9・11の同時多発テロやイラクなどの戦場において、偵察や爆弾処理を目的として徹底的に使い倒され、2011年には現場に即投入できる状態になっていました

軍事からロボット掃除機事業へ

創業から2000年頃まで軍事用開発に専念しながらも、大きな事業には成長しませんでした。そこで「Dull、Dirty、Dangerous(退屈、不衛生、危険)な仕事から人々を解放する」というビジョンは維持したまま、B2B市場からB2C市場に変更しています。具体的には、高機能・ニッチな市場である軍事市場から、低機能・一般市場である掃除市場に転地を行い、2002年に初代ルンバを発売するとともに、一気に売上げを拡大させていきました。
結果的に、創業から13年間連続赤字から脱却し、2003年には黒字化を達成しています。

台数的には、これまでに世界で累計2500万台以上、国内では累計300万台以上を販売するまでになっています。シェア60%という圧倒的な状況ですが、世帯普及率で言えばまだまだ5%です。これを多いと見るか少ないと見るかはそれぞれですが、まだまだ伸びる市場なのではないでしょうか?

2016年には軍事部門を売却しています
https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/spv/1602/05/news068.html

ビジネスモデル的には、本体+消耗品という感じでしょうか。具体的には、ブラシやフィルタといった消耗品に加え、本体の掃除やバッテリー交換といったメンテナンスを組み合わせることで、約5年で本体と同額のランニングコストが掛かるよう形の想定になっています。ただし、このモデルがうまく行っているかは若干怪しく、我が家も使い始めて数年経ちますが一度も交換したことはありませんが、しっかり掃除してくれます。
収益としては、2018年は売上1180億円に対して、営業利益6.7%という状況で、まずまず収益を実現しています。

また、導入障壁を下げて、ユーザー数を増やすためか、最近ではサブスクリプションのモデル「Robot Smart Plan」も始めています。こちらは、月額1200円から試せて、36か月後には所有権がユーザーに移行するというもので、確かに始めてみやすいかもしれません。

移動プラットフォーマへ?

そんなiRobot社も近年は少し違う動きをしているように感じます。それは「ロボット掃除機メーカ」から「ロボットプラットフォーマ」への更なる進化です。

もちろん、Evolution Roboticsを買収し、床の水拭きロボットである「ブラーバ」を商品化し、ルンバとの連携をするなど掃除メーカとしても進化をしています。また、技術的にもマッピング技術、自己位置推定技術などを強化し、家の中の情報をしっかり取るというスマートホームのコアとしての位置付けも狙っているでしょう。

しかし、それらに加えてプラットフォーマとしての活動がちょこちょこ出てきます。

これまでにプラットフォーム第一弾として、2007年に研究開発用の自律移動ロボットiCreateを発売し、おそらくそこで培った知見を元に本格的なプラットフォームとして「AVA」の提供を開始しています。

AVAはルンバで培ったSLAMなどの自律移動部分のみを抜き出した自律移動ロボットで顧客の用途に応じてカスタマイズができるようになっています。また、IoT端末として外部に繋がることも十分意識された設計になっており、例えば、米国では遠隔医療を行うInTouch社と連携し、遠隔医療ロボット「RP-VITA」を発売しています。昔、海外の展示会で使わせて貰ったことがありますが、よく出来てました。

今後、この動きが加速していくかはわかりませんが、iRobot社は2018年に入り、移動部であるAVAを扱う会社をAVA ROBOTICSとして独立させています。

自律移動は、ROSなどの出現により若干コモディティ化してきているとはいえ、まだまだ高度なインテグレーション技術になっている分野であり、現場で実際に使えるレベルに仕上げるのは非常に難しいのですが、軍事で培ってきた信頼性の高い移動技術と掃除で培ってきた安価な技術力を上手く融合させることで、自律移動のデファクトになっていく可能性はあります。

また、「Root Robotics」を買収し、STEM教育("Science, Technology, Engineering and Mathematics" /科学・技術・工学・数学の教育分野)にも取り組み始めています。子供・学生達がiRobot社のロボットを使うようになるでしょう。

日本でもルンバを使ったワークショップなども企画されています。コリン・アングルCEOは社会貢献プログラムとオフィシャルには位置付けているようですが、単なるCSRというよりかは、iRobot製品(特に掃除)に早くから親しみを持つ、更には「iRobotの移動ロボットをプログラミングできるユーザを増やす」というプラットフォーム化に向けた布石のように見ることができます。

掃除分野を深掘りしていくのか、プラットフォーム化して幅を広げていくのか、iRobot社の戦略はまだ分かりません。しかし、中国シャオミーが3万円でLiDARを乗せてSLAMをするというルンバ最高機種並みのロボット掃除機を3万円で出してくるなど、掃除ロボット本体の低価格化が急速に進む中、iRobot社の株価が急低下しているように市場からの期待も評価も厳しさを増していくかと思います。

ロボット企業のパイオニアとしてこれからも目が離せません。

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