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契約書を読んでみよう!【委託料の条項】

契約書の具体的な読みかたをまとめます。業務委託契約書から切り取った条文を、どう読むべきか。無機質に思えたあの契約書が、より実感を伴って読めるようになるかもしれません。

委託料の例文

第○条(委託料)
本件業務の委託料は、○○万円(消費税別)とする。
2 本契約が解除その他の事由により、本契約に定める委託期間の途中で終了したときの委託料は、前項の委託料の額に、当該終了時までの本件業務の履行の割合を乗じた金額とする。

ビジネス契約書であれば委託料の額か、金額の計算方法など、ようするに「いくらもらえるのか」が必ず書かれているはずです。よって、委託料の条文は、金額に間違いがないかをチェックすることが重要といえます。まあ、当然ですよね。

ここでちょっと、豆知識をつけくわえると、本契約が委任契約の場合、委任契約は民法上は無償契約ですので、法的性質としてはボランティアみたいになってしまうのです。本来の委任契約は、特約しなければ報酬がもらえない契約です。

ただ実際には、ビジネス契約の場合は通常、当事者が商人でしょうから、商法の適用があり、商法512条による報酬請求権が生じます(商法512条:商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる)。だからタダ働きにはならずに済むわけです。

委任契約がもとは無償の契約で、特約又は商法の適用によって報酬請求権が生じる、と知っていると、こんなシンプルな条文にも重みが感じられます。

委任契約が途中で終了しても委託料はもらえる?

ところで、大事なお金のことなので少しリスク回避も考えましょう。もしあなたが仕事をお願いされた(委任契約の受任者)として、何らかの理由で途中で契約が終了してしまったときに「途中で契約が終わったから委託料も無しにして」といわれたら相当困ると思います。

途中までとはいえ委任事務をしたのだから、せめて「やった分だけ」はもらいたいと思うでしょう。この点、民法はどうなっているかというと、やはりやった分だけ(履行割合)委託料をもらえるという規定になっています。

少し詳しくいえば、委任の成果が得られる前に契約が終了した場合の受任者の報酬については、請負の規定(634 条)が準用されて(648 条の2第2項)、委任者の帰責事由なく契約が終了した場合に既履行部分について委任者が利益を受けるときは、既履行部分を得られた成果とみなして受任者は委任者の利益の割合に応じた報酬を請求できるといえます。よって、仮に仕事が50%終わっていれば、委託料も50%請求できます。

というわけで、例文でいうと、

2 本契約が解除により終了したときの委託料は、前項の委託料の額に、当該終了時までの本件業務の履行の割合を乗じた金額とする。

の部分で、ちゃんともらえることを確認しているわけです。

例文は民法通りの規程ですので、無理に契約書に書かなくてもリスクはないのですが、やはりお金のことなので明確にしておきたい(確認規定)わけです。それと欲をいえば、もう少し明確に委託料が計算できると、あなたの立場ではより安心ではないでしょうか。

たとえば帳簿の入力を代行するような委任契約があったとして、入力作業の量(レシートの枚数や仕訳数など)に、単価を掛けることによって委託料が計算できるなどであれば、契約が途中で終了したとしてもその時点で入力が済んでいた業務量から、その時点での委託料を計算できるはずです。あるいは中途で終了した場合でも全額もらえるような特約も考えられますね。

委託者のミスで契約終了した場合は?

たとえば、契約の途中終了原因が、依頼した側(委任者)のせい(責任)だった場合はどうなるでしょうか?

受任者は悪くないとすれば、法的には受任者は報酬の全額を請求できることになります。民法に「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。」と書いてあるためです。

改正民法536条(債務者の危険負担等)
1 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

委任者(発注者側)の手違いとかミスによる中途終了だったら、委託料は全部もらえる。あたりまえのような気もしますし、受任者には有利な規定ですが、委任者としては少し気を付けたいところです。

委任者が、万が一「自社の責めに帰すべき事由によって」契約を途中で終了させてしまった場合には、委託料を全額支払うリスクがあるともいえます。そこで契約により、委任者の帰責事由で契約が終了した場合も、履行割合に応じた委託料、つまりやってもらった分だけ支払う、と規定しておくことも考えられます。

もちろんこれが、信義則や公序良俗に反する規定となれば無効ですが、具体的な委託業務の内容と委託料の計算方法が合理的であれば、十分可能な規定と考えられます。整理すると、委任者のせいで契約が途中で終わってしまったときの委託料は、

①委任者の責めに帰すべき事由により契約終了→ 全額支払う(原則)
②委任者の責めに帰すべき事由により契約終了→ やってもらった分だけ(履行割合に応じて)支払う(特約)

のふたとおりが考えられます。あなたが受任者ならば①が望ましく、あなたが委任者だった場合は②の方が有利になります。ごちゃごちゃしてきましたが、ようするに全部もらえるのか、やった分だけにするのかを、当事者のどちらの責任で終了したかによって変えるか、変えないかです。

まとめ

まとめると、委任契約(履行割合型)において、契約が途中で終了した場合でも、受任者には報酬請求権があります。委任者に帰責事由があれば、報酬は全額支払うのが原則であり、委任者の帰責事由による契約終了時にも、履行割合に応じた委託料としたいならば「委託者の責めに帰すべき事由によるときも同様とする。」などと特約する必要があります。逆に、委任者の帰責事由で終了した場合には民法の原則通り、委託料の全額を支払うこととする場合には、上記例文に加え「ただし、委託者の責めに帰すべき事由により終了するときは、委託料は全額支払う。」などと規定します。

お金の支払に関する条文は、特に丁寧に読みたいですね。


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