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契約書を読んでみよう!【業務委託契約の報告義務】

契約書の具体的な読みかたをまとめます。業務委託契約書から切り取った条文を、どう読むべきか。無機質に思えたあの契約書が、より実感を伴って読めるようになるかもしれません。

報告義務の例文

第○条(報告義務)
 乙は、本件業務の遂行にあたり、甲の求めるときは、本件業務の進捗状況その他甲が定める事項を甲に報告しなければならない。

委任契約における報告義務を定めた条文です。
こういうシンプルな条文が意外と怖いので気を付けましょう。

たとえば、ある専門家にコンサルティングを頼んだとして(委任契約)、引き受けた専門家はもちろんたのまれた仕事をするわけですが、頼んだ方(委任者)は「ちゃんとやってくれてるのかな?」と思っていることがあります。

期待通りにやってくれるかな?

行政書士(士業)界隈でも、「仕事を頼んだのにいつまで待っても連絡が無く、しびれを切らして問い合わせてみたら着手されてなくて、ほったらかしだった!」みたいなクレーム事案を聞きます。おそろしい。

もちろん全てケースバイケースでして、士業ばかりが悪いとも限りません。かばうわけじゃないですが、相談と依頼の線引きがあいまいになりがちな世界なので、はっきりと依頼されたかどうかの確認漏れもあるのでしょう。いずれにしても「言った言わない」のすれ違いには気を付けないといけませんね。

とにかく、頼んだ側というのは「進捗」が気になるものです。だから頼まれた方は進捗報告するのがマナーだと思いますが、そもそも法的にはなにか決まりはあるのでしょうか。

民法上は報告義務はあるのか?

この点、民法の645条というところを見ますと、

民法645条
受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。

と書いてあります。

つまり、頼んだ方からは「いつでも」委任事務の処理について、状況報告を求めることができる(頼まれた方は報告しなさい)という意味ですね。委任契約を結んだ以上は、受任者には報告義務が当然生じているわけです。

地味だけど効果的な条文

あらためて例文をみると、ほぼ民法と同じ内容の、シンプルな規定、ようするに確認規定ですね。

とはいえ仕事を頼んだ側としては非常に重要な、受任者の報告義務です。民法にも規定があり、契約書にも確認してあれば、堂々と進捗の報告を受任者に求めることができるというものです。契約当事者のコミュニケーションが良好なときは必要ないのかもしれませんが、現実のビジネスにおいて、常に仲良しな関係ばかりではありません。ときにはこうしたお互いのルールを、文章で確認しながら慎重にすすめなくてはならないときもあるんですね。

そうした意味で、長期間にわたるコンサルティング契約などに、必ずといっていいほどこの「報告義務」の条文がでてきます。

これは完全に僕の主観が入っていますが、契約はただの手続きであると同時に、心理的プレッシャーでもあります。委任者が報告を求められるとすることのメリットは、単なる進捗把握にとどまりません。報告を求めるというアクションは依頼主の意向をその都度受任者に伝えるでしょうし、その緊張が品質維持をもたらすでしょう。ようは一種の監督機能があると思われます。

実際、契約実務上は報告義務を具体化して、定期的な報告頻度(「毎月○回以上」など)を定めたり、委任者の所定のフォーマットに従って報告書を提出させるといった規定にする例もよくみられます。

第○条(報告義務)
 乙は甲に対し、本件商品の数量、頒布数量等の使用状況の詳細を、甲が指定する期日までに書面により報告しなければならない。
2 乙は、甲の求めがあるときは、本契約に関する乙の○○○等の書類を、甲の職員又は甲の指定する代理人に閲覧させ、謄写を認めなければならない
3 乙は甲に対し、本契約期間終了後、速やかに本件商品の最終的な○○○数を書面により報告しなければならない。


もしあなたが専門家や企業にコンサルティングなどを委託する立場であれば、報告義務を具体的に設計することが、業務のクオリティの維持にとって地味に効いてくるわけです。逆に、あなたが受任者の立場であれば、あまり非現実的な報告回数や、無意味に威圧的な規定をみつけ、せめて民法の確認規定程度に抑えるなどコントロールすることが考えられるでしょう。

短い条文のなかにも互いの期待と、心理戦が隠れているようで、面白い条項ですね。


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